房ごとのブドウを用いた醸造オプション(醸造の選択肢)のワインへの影響についてまとめてみました。
房ごとのブドウを用いるためには、ブドウの収穫を手収穫で行うため、多くのワイン産地では機械収穫に比べてコストが余計にかかります。そのため、基本的には一定価格以上の比較的品質の高いワインに使われます。
房ごとのブドウを用いる醸造オプションは、白ワインでは主に「圧搾工程」、赤ワインでは主に「アルコール発酵の工程」で違いを生み出します。
圧搾工程における影響
まず、ブドウ果汁を搾り出す「圧搾工程」では、緩やかな力で果汁の抽出ができると言われています。圧搾にかける力が緩やかな分、果皮などの固形部分から絞り出される固形物や、タンニン、色素などの成分の抽出が抑えられます。
シャンパーニュなどの繊細で高品質なスパークリングワインでは、房ごとのブドウによる圧搾が行われています。
さらに、房ごとのブドウは果梗が液体の通る隙間を作ることで、圧搾後に果汁の流出作業を容易に行うことができるとも言われています。
一方で、房ごとのブドウは果梗がある分、果実だけのブドウに比べて一度に圧搾タンクに入れられる量が少なくなり、圧搾効率は落ちてしまうというデメリットがあります。
アルコール発酵工程における影響
発酵工程において房ごとのブドウを用いる影響は、大きく分けて「果梗の影響」と「細胞内の発酵」による影響の2つに分けられます。
前者の「果梗の影響」としては、果梗の持つスパイスやハーブの香りがワインに加えられ、香りや風味の複雑性が増すと言われています。また、果梗由来のタンニンが抽出されることで、ワインの骨格が増すとも言われます。
その反面、果梗の成熟度が十分でない場合は、不快な青い香りや、苦い未熟なタンニンが抽出されるリスクも抱えています。
房ごとのブドウを用いるもう1つの影響は、「細胞内の発酵」による影響です。詳しい仕組みに関しては以前の記事で触れました。
(関連記事:赤ワインで重要な「房ごと発酵する醸造方法」と「細胞内の発酵」)
細胞内の発酵は、酸素が十分に得られない嫌気的な環境で発生し、ブドウ果実中の糖分は、酵母の仲介なしにアルコールに変えられます。細胞内の発酵では、一般的なアルコール発酵とは異なり、グリセロールレベルが上昇し、リンゴ酸のレベルが低下すると言われています。また、キルシュ、バナナ、風船ガム、シナモンで形容される独特な香りが発生するとも言われます。
この影響によって、ワインの質感は増し、ワインには上述のフルーティな香りが加わります。
房ごとのブドウを使う割合が50%かそれ未満の場合には、細胞内の発酵に引き続き、酵母を介した通常のアルコール発酵が行われることがよくあります(房ごとのブドウの割合が100%の場合は、マセラシオン・カルボニックと呼ばれます)。
この場合、細胞内の発酵と、酵母による発酵の2種類の発酵に由来する香りがワインに加えられ、ワインの香りの複雑性が増すというメリットが得られます。