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エントレ・コルディリェラス? チリの新しい原産地呼称の覚え方

 チリのワイン産地は南北に長く広がりますが、地形的な特徴の影響を受けるために、実は南北よりも東西にかけて、気候や土壌の多様性が非常に高いと言われています。 従来の原産地呼称では、この東西にかけてのワインスタイルの特徴の違いが十分に表現されていませんでしたが、2011年から、この問題を解決するための新たな付加的な原産地呼称が加えられました。 それが、「コスタ(Costa)」、「エントレ・コルディリェラス(Entre Cordilleras)」、「アンデス(Andes)」の3つです。 これは従来の原産地呼称に付加的に加えられるもので、例えば「Aconcagua」で造られたワインに対して、「Aconcagua Costa」、「Aconcagua Entre Cordilleras」、「Aconcagua Andes」のようにラベルに表記されるようです。 上図のように、「コスタ」は海の影響を受ける地域、「アンデス」はアンデス山脈の影響を受ける地域、そして「エントレ・コルディリェラス」はその間の地域を表します。 この新たな原産地呼称の仕組み自体はシンプルなのですが、それぞれの名前、特に「エントレ・コルディリェラス(Entre Cordilleras)」を覚えるのが厄介です。 そこで、これを覚えるための語呂合わせを考えてみました。 エントレ・コルディリェラスは少し苦しいですが、英語のスペルも覚えられるように、それに合わせた語呂合わせにしてみました。 <了>

リオハの主要品種の覚え方(語呂合わせ)

 スペインのリオハの赤ワインに使われる主要品種の覚え方を考えてみました。 リオハと言えば、スペイン中央部の北側に位置するワイン産地で、特に赤ワインが有名です。 リオハは大きく3つのサブゾーンに分かれており、各ゾーンごとに気候や土壌の違いがあるために、栽培されるブドウの種類にも若干の違いがあります。 上図の青い部分が「リオハ・アルタ」、オレンジが「リオハ・アラベサ」、黄色が「リオハ・オリエンタル」というなのサブゾーンです。 リオハ・オリエンタルは昔は「リオハ・バハ」という名前で呼ばれていました。Bajaとは下流を表すスペイン語とのことですが、これはリオハの中心部を流れるエブロ川の下流に位置することから名づけられたようです。しかし、下を表すBajaという言葉が品質の低さも連想させることから、東を意味する「リオハ・オリエンタル」という名前に改められたようです。 一方で、エブロ川の上流にあるゾーンにはアルタ(Alta)という名前が付けられて、「リオハ・アルタ」と呼ばれています。 エブロ川の上流の一部、北岸のゾーンには「リオハ・アラベサ」という名前が付けられていますが、これはこの地域がアラバ県(バスク州)に位置することからつけられた名称であると考えられます。 さて、ブドウ品種の名前に戻りますが、リオハの赤ワインに使われる品種は「テンプラニーリョ」、「ガルナッチャ」、「グラシアーノ」、「マスエロ」、「マトゥラナ・ティンタ」などです。 これらの品種を覚えるために次のような語呂合わせを作ってみました。 テンプラニーリョ(Tempranillo) リオハで栽培されているブドウの9割が黒ブドウですが、黒ブドウの中でもさらに9割近くの栽培面積を誇るのがこのテンプラニーリョです。つまり、リオハにおいては圧倒的に栽培量の多い品種であるということです。 テンプラニーリョは早熟な品種であるために、高品質なものは、比較的涼しい地域で栽培されることが多いようです。サブゾーンでいうと、リオハ・アルタやリオハ・アラベサの涼しい地域に適していると言われています。 リオハブレンドの主要品種としてや、単一品種ワインとしても使われます。ラズベリーや黒プラムの風味と、中程度かそれよりもやや高めの酸味とタンニンを持っています。 ガルナッチャ(Garnacha) ガルナッチャは、リオハで2番目に多く栽培されている黒ブ

アンジュー&ソミュール地区の甘口ワイン産地と語呂合わせ

 今回は、ロワールで有名な甘口ワインの産地を覚えるための語呂合わせを考えてみました。 コトー・デュ・レイヨン(Coteaux du Layon)AOC、ボンヌゾー(Bonnezeaux)AOC、カール・ド・ショーム(Quarts de Chaume)AOCは、ロワールのアンジュー&ソミュール地区に属します。 アンジュー&ソミュール地区には東西に渡ってロワール川が流れていますが、もう1つ、レイヨン川と呼ばれる川が南北に流れており、アンジェの南側でロワール川に合流しています。 このレイヨン川とその支流は、沿岸の畑に湿気をもたらし、貴腐ワインを造るために理想的な環境を提供しています。 コトー・デュ・レイヨン(Coteaux du Layon)はレイヨン川に沿って広い範囲に広がる地域です。ここでは、湿気の多い環境を活かして、貴腐ブドウや過熟ブドウから造られる甘口ワインが造られています。 ボンヌゾー(Bonnezeaux)とカール・ド・ショーム(Quarts de Chaume)は、コトー・デュ・レイヨンの範囲内に位置する特に優れた甘口ワインを製造する地域です。 特に、カール・ド・ショーム(Quarts de Chaume)はロワールで最初のグラン・クリュの名前が与えられたそうです。 最後に、個人的にわかりにくいと思っていた「アンジェ(Angers)」と「アンジュー(Anjou)」の違いについて。 アンジェは都市の名前で、アンジューはかつてあった州の名前です。アンジューは現在の地方行政区画としては利用されていないようです。 アンジェとアンジュー、特に日本語にするとなんとも紛らわしい名前です。 <了>

多すぎる!ポルトガルワインの土着品種の覚え方を考える

ポルトガルワインに使われるブドウ品種の特徴は、土着品種の多さです。 地域ごとに異なる種類の土着品種が使われるので、それぞれの品種を覚えるのが大変です。 地域ごとに覚えたいブドウ品種を、黒ブドウ、白ブドウそれぞれについてまとめてみました。 赤ワインに使われるブドウ品種 ポルトガルでは、より多くの赤ワインが造られていますが、まずは赤ワインの製造に使われる黒ブドウから。 ポルトガルには31のDOC(DOPレベル)と、14のVR(PGIレベル)がありますが、すべて細かく覚えていくのが大変なので、まずは5つのDOCに絞ってみました。 ヴィーニョヴェルデDOC、ドウロDOC、バイラーダDOC、ダォンDOC、アレンテージョDOCの5つです。 品種を覚えるための手助けとして、まずは各地域を南北に北部、中部、南部に分けて、東西に沿岸部、内陸部に分けてみました。(青い点線で記しました) まず、全体的な特徴としては、海風の影響が限定的でより暖かい内陸部では圧倒的に赤ワインの生産量が多いということです。 このような 内陸部 では、ティンタロリス(テンプラニーリョ)や、トウリガナショナル、トウリガフランサなどが大きな役割を果たしています。 一方で、 沿岸部 で栽培されているブドウ品種は、より地域によって特徴的です。 ヴィーニョヴェルデ この地域で生産されるワインの8割以上が白ワインであり、赤ワインが注目されることはそれほどないかもしれません。 ヴィーニョヴェルデで圧倒的に多く栽培されている黒ブドウは、ヴィニャン(Vinhão)です。この品種は、ドウロエリアでも栽培されており、ソウソン(Sousão)という名前で知られています。 この品種の特徴は、 ・果皮が厚く、色濃いワインを造る ・高い酸味を持つ ・赤系果実(さくらんぼ)の香りを持つ などです。 バイラーダ この地域で最も多く栽培されている黒ブドウは、バガ(Baga)という名の品種です。 ポルトガルワインの多くは複数ブドウ品種のブレンドから造られますが、バガはしばしば単一品種のワインとしても製造されるようです。 バガの特徴は、 ・晩熟品種 ・高いレベルの酸味とタンニン ・中程度のボディ ・赤系果実の香り(クランベリー、さくらんぼ、赤プラム) ・若いうちは口当たりが良くないが、瓶内熟成で複雑な味わいになる などです。 バイラーダは海に近く、雨

ポルトガルの2つの「セルシアル」と呼ばれるブドウ品種

 ポルトガルのブドウ品種で「セルシアル」と言えば、真っ先に思い浮かぶのは酒精強化種のマデイラで使われる「Sercial」という白ブドウ品種かもしれません。 この「Sercial」の特徴は、晩熟で高い酸味を持ち、あまり潜在アルコール度が高くないことです。最も辛口のマデイラに使われるブドウ品種です。 そして、ポルトガルにはもう1つ「セルシアル」と呼ばれるブドウ品種があります。 それは、「Cercial」という白ブドウ品種で、ポルトガル本土のダォン、バイラーダ、テージョなどのワイン産地で栽培されています。 「Cercial」は酸味が豊かな品種で、通常、バガ、ビカル、エンクルザードなどのブドウ品種とのブレンドワインに使われることが多いようです。単一品種として使うと、柑橘系果実(ライムやグレープフルーツ)やミネラル感のあるワインを造り、酸味が豊かであるために十年程度の長期熟成が可能であると言われています。 「Cercial」の表記は、「Cerceal」や「Sercial」ともされるようです。 両品種ともに別々の品種のようですが、両社ともポルトガルの土着品種であるために、容易に混同してしまいそうです。 <了>

語呂合わせで覚えるドウロ・ワインの白ブドウ品種

  ポルトガルのドウロは酒精強化ワインであるポートワインで有名な地域です。 しかし、ここでは通常のワイン(スティルワイン)も造られています。 ポルトガルのワインの多くでは、ポルトガルのみに根付いている土着品種が多く使われています。 土着品種は聞きなじみのない名前が多いので、覚えるのが非常に大変です。 例えば、ドウロの赤ワインでは、トウリガ・ナシオナル、トウリガ・フランカ、ティンタ・ロリス、ティンタ・バロッカ、ソウソンなど主要品種の名前があがります。 ポルトガル以外の地域では、あまり名前を聞かないブドウ品種です。しかし、「トウリガ~」、「ティンタ~」などの名前の法則があって、やや覚えられそうな名前かもしれません。 一方で、白ワインによく使われる品種は、ヴィオジーニョ、ラビガート、ゴウヴェイオ、モスカテル・ガレゴ・ブランコなどの名前があがります。 これらは赤ワインに使われるブドウ品種に比べると、一から覚えるのはとても大変そうに思えます。 そこで今回は、ドウロで造られている白ワイン(スティルワイン)に使われる有名な品種を覚えるために、語呂合わせを作ってみました。 ------------------------------ 道路で色白  (ドウロ白ワイン) 美人の   (ヴィオジーニョ) 「アリガート」  (ラビガート) 聞きに、 豪米欧へ   (ゴウヴェイオ) ガレゴー   (モスカテル・ガレゴ・ブランコ) ------------------------------ それぞれのブドウ品種の特徴を見てみようと思います。 ヴィオジーニョ (Viosinho) ・有核果実(モモ、アプリコットなど)や花の香りを持つ ・フルボディのワインを造る ・酸味に欠けることがある ラビガート (Rabigato) ・柑橘系果実(レモン、ライムなど)や花の香りを持つ ・高い酸味を持つ ゴウヴェイオ (Gouveio)  ※スペインではゴデーリョ(Godello)と呼ばれる ・柑橘系果実(レモン、ライムなど)や花の香りを持つ ・やや高い酸味を持つ モスカテル・ガレゴ・ブランコ (Moscatel Galego Branco)  ※(=  Muscat Blanc à Petits Grains ) ・マスカット系の強い風味/香りを持つ 最後に、ドウロの赤ワインに使われる主要品種(トウリ

【考察】ニュージーランドのワイン産地は3つの気候帯で考えるとわかりやすい

 ニュージーランドには10にも上るワイン産地があり(サブリージョンを含めるともっと!)、それぞれの地域で栽培されているブドウ品種はそれぞれ異なります。 それぞれの産地について、栽培環境や主要品種を個別に覚えていくのは結構大変な作業です。 そこで、ニュージーランドを大きく3つの気候帯に分けて考えてみると、そこで栽培されているブドウ品種の特徴が見えてくるのではないかと、気候帯と栽培されているブドウ品種の関係を考察してみることにしました。 3つの気候帯の分け方ですが、次の地図の通りです: ※赤線の地域は代表的な産地を表しています 北から、 ・温和な海洋性気候(ホークスベイなど) ・冷涼な海洋性気候(マールボロなど) ・冷涼な半大陸性気候(セントラルオタゴのみ) の3つです。 ニュージーランドのほとんどの産地は海の影響を受ける「海洋性気候」です。その中でもより緯度の低い北島はより暖かい「温和な気候」、緯度の高い南島は「冷涼な気候」です。 そして、南島の中でも山に囲まれたユニークな地形を持ったセントラルオタゴは、「冷涼な半大陸性気候」です。 それでは、それぞれの地域で栽培されているブドウ品種を見ていこうと思います。 <温和な海洋性気候の地域> ここは、ニュージーランドでも最も暖かい気候を持つ地域です。南島に比べて地形の起伏も大きくなく、昼夜の寒暖差もなく、育成期間を通して一定の暖かさが得られるようです。 そのため、晩熟の赤ワイン用ブドウが栽培されていることが特徴です。 例えば、オークランドのカベルネソーヴィニヨンやシラー、ホークスベイのシラー、メルロ、カベルネソーヴィニヨンなどが有名です。 特に、ホークスベイのギンブレット地区はボルドーのような砂利土壌を持ち、水はけがよく暖かい栽培環境が得られるために、メルロを中心に晩熟型のボルドー品種が多く栽培されています。 一方で、白ワインについては比較的、シャルドネが多く栽培されているようです。ギズボーンやホークスベイで多く栽培されています。 ニュージーランドの白ワインと言えばソーヴィニヨンブランですが、この地域にはソーヴィニヨンブランが有名な地域はあまり無いようです(北島のワイラパパはソーヴィニヨンブランが有名ですが、私の分析では次の「冷涼な海洋性気候」に含めています)。もしかしたら、品質の高いソーヴィニヨンブランを育てるためには、少

地形に富んだセントラル・オタゴのサブリージョン(ニュージーランド)

 セントラル・オタゴと言えば、ニュージーランドで最も有名なワイン産地の1つです。 セントラル・オタゴは、ニュージーランドの地方行政区画である16の地方のうち、オタゴ地方に位置しています。 下の図でオタゴ地方の場所を見てみると、オーストラリアのタスマニア島よりも、やや緯度の高い場所に位置しています。 セントラル・オタゴはオタゴ地方の北部一帯を占めますが、それでも世界最南端のワイン産地と言われています。 ニュージーランドのワイン産地のほとんどが海洋性気候である一方で、セントラル・オタゴは半大陸性気候という独特な気候をもっています。これは、この地域がサザン・アルプスに囲まれているために、海からの影響から遮断されていることが原因だと言われています。 セントラル・オタゴの気候的な特徴は、暑い夏、日中と夜間の寒暖差(いずれも半大陸性気候が原因)、高い紫外線レベル(高緯度、オゾン層破壊、少ない大気汚染が原因)です。この地域で生産されるブドウ品種のほとんどをピノ・ノワールが占めますが、このような気候的な特徴を受けるために、製造されるワインは、色が深く、フルボディで、豊富な酸味と熟したタンニンを持ち、強烈な赤系と黒系果実の香りを帯びると言われています。 これがセントラル・オタゴに関する一般論ですが、この地域には6つのサブリージョンがあり、それぞれのサブリージョンによって若干のスタイルの違いがあるようです。 この記事では、個人的な備忘の目的も含め、それぞれのサブリージョンを整理してみようと思います。 まず、サブリージョンの位置ですが、いずれのサブリージョンもセントラル・オタゴ(地図の白線)のごく中心部に集中しています。およそ、下の地図の赤枠に収まる範囲です。 6つのサブリージョンには次のような地域が含まれます: ・アレクサンドラ ・ギブストン ・バノックバーン ・クロムウェル/ローバーン/ピサ ・ベンディゴ ・ワナカ それぞれの位置関係を3Dの地図を使って調べてみました。地図の範囲は、ちょうど上の赤枠のエリアくらいです。(ただし、だいたいの場所を表しており、そこまで正確ではないかもしれません) ちょうど中心部の湖の谷間に「バノックバーン」、「クロムウェル/ローバーン/ピサ」、「ベンディゴ」の3つのサブリージョンが位置しており、南東の端に「アレクサンドラ」、西端に「ギブストン」、北端に「

ブルゴーニュのワインがなぜ高い評価を得ているのか?を考察

 世界で最も評価の高いワイン産地として真っ先に名前があがるのは「ブルゴーニュ」なのではないかと思います。 しかし、「なぜ、ブルゴーニュの評価が高いのか?」と聞かれると、「有名だから」、「値段が高いから」、「歴史があるから」くらいしか答えが出てきません。 これくらいの回答しかできないのは、せっかくワインの勉強をしているのにさみしい気がします。 そこで、なぜブルゴーニュのワインが高い評価を得ているのかについて、個人的に分析をしてみることにしました。 まず、最初に、できるだけ漏れなく、重複なくその理由をあげることができるように、フレームワークを使って考えてみようと思います。 <歴史・伝統> まず、「歴史・伝統」に関しては、長いワイン造りの歴史があること、ブルゴーニュのワインが世界中の手本にされていることが大きな理由なのではないかと思います。 ブルゴーニュのブドウ栽培の歴史は非常に古く、古代ローマ時代から始まり、紀元前1000年くらいには、ブドウ畑はクリマと呼ばれる個別の区画に分けられていたと言われています。また、ブルゴーニュワインについての記録は、591年のものが残っているようです。 また、長いワイン造りの歴史と相まって、ブルゴーニュのワイン、特にピノノワールとシャルドネの単一品種ワインは、世界中の生産者からお手本とされています。 <ブドウ栽培> ブドウ栽培については、高級品種であるピノノワール(赤)とシャルドネ(白)に適した栽培環境があること、供給量が少なくその分人気や価格が高いことが理由に挙げられるのではないかと思います。 ブルゴーニュは冷涼~温和な大陸性気候です。この気候の特徴は夏が短く、早熟品種であるピノノワールやシャルドネの栽培に適していると言われています。また、南北に連なる丘陵地帯であるコート・ドールを中心に、南向きや南東向きの斜面が多く、このような場所にある畑ではブドウが熟成に必要な日照量が十分に得られます。土壌は石灰石を含む土壌で、特に斜面の畑では水はけがよく、樹勢が制限され、果実味の豊富なブドウが収穫されます。 このような栽培環境に恵まれているおかげで、ワイン用ブドウ品種の中では評価の高い品種であるピノノワールやシャルドネを高い品質で栽培できるのだと思います。 また、ブルゴーニュは、北はディジョンから南はマコンまでの約130kmを南北に走る比較的狭い土地

アルゼンチン・ワインの地理的表示(GI)を考える ~ルハン・デ・クージョやサン・ラファエルはどのレベル?

 アルゼンチン・ワインの 地理的表示(GI) を整理してみようと思います。 アルゼンチン・ワインの地理的表示は基本的に、 地方行政区画 に従っています。地方行政区画とは、円滑な行政を行うために区切られた区画です。ワイン産地の多くは、地方行政区画(日本でいうと長野県など)か、もしくは、慣習的に使われている地方区分(日本でいうと信州など)で区切られています。 例えば メンドーサ を例にとってみます。 まずメンドーサを含んでいる最も大きな地理的表示は、 クージョ(Cuyo I.G.) です。 クージョは、正確には地方行政区画ではありませんが、昔から伝統的に使われてきた地理的区分だそうです。通常、「クージョ」という場合は、サン・フアン州、サン・ルイス州、メンドーサ州、ラ・リオハ州の4つの州が含まれますが、ワインのGIの場合はサン・ルイス州は含まれないようです。これは、サン・ルイス州でワイン製造が盛んでないためかもしれません。 ちなみに 「I.G.」 とは、 「Indicacion Geografica」 の省略であり、 Geographical Indication(地理的表示) と同義です。 そして、メンドーサを含む次の大きいGIは、 メンドーサ(Mendoza I.G.) です。これはもっとも大きい行政区画であるプロビンシア(=州)レベルのGIです。ちなみにアルゼンチンの州は英語では「province」と表現されます。 さらに、メンドーサ州を詳しく見てみると、メンドーサ州はいくつかの デパルタメント に分れています。デパルタメントとは州の下位に位置する地方行政地区です。デパルタメントは県とも訳される場合があるそうです。英語では「department」を表現されます。 メンドーサ州のデパルタメントの中には、 「ルハン・デ・クージョ・デパルタメント」 と 「サン・ラファエル・デパルタメント」 が含まれています。それぞれ、 Luján de Cuyo GI と、 San Rafael I.G. というGIが存在しています。 この2つの地域は、アルゼンチンに2つしかない DOC産地 として有名です。 DOC産地のワインが、一般のGIワインと異なる点は、ブドウやワインを栽培/生産できる地理的な制約だけではなく、 ブドウ栽培やブドウ品種、ワイン醸造に対しても一定の法的な制約が課せら

はじめての失敗!WSET Diploma D4, D5 オンライン受講の感想と試験対策

D4(Sparkling wines)とD5(Fortified wines)についての取り組みについても忘れないうちにしたためておきたいと思います。 まず、スケジュール感は下の図のような感じです。 幸運にもD1とD2の進捗が順調に進んでいたので、一気に最短でD4とD5の受講&試験も進めてしまうスケジュールで取り組みました。 つまり、D4とD5の受講(オンライン)はD2(Wine Business)の試験準備と並行して取り組んで、D4とD5の試験は最短で受験してしまおうというスケジュールです。 D4とD5はそれぞれ試験範囲がそれほど広くないためか、試験日程は同日に設定されていました。ちなみにD4とD5の全体におけるWeightingはそれぞれ僅か5%ほどです: D4 Sparkling Wines - 5% D5 Fortified Wines - 5% いままで学習をしてきたD1(Wine Production)が20%、D2(Wine Business)が10%であることを考えると、ボリュームはかなり軽めの内容です。 それでも2つの範囲を一度に受験することに一抹の不安はありましたが、「えいや」と受けてしまうことに決めました。 D4とD5の受講内容 受講内容は基本的には、一番最初のD1(Wine Production)とほとんど同じでした。 (関連記事: WSET Diploma D1オンライン受講の感想① ~オンライン受講の流れ~ ) 異なる点としては、用意をしなければならないワインのタイプがより専門的なものになったことでした。当然、ふらっと近所のワインショップに立ち寄って、販売されているようなものではありません。例えば、ヴィンテージポートや、マデイラ、ヴィンテージシャンパーニュなどです。 これらの購入については、主に楽天などのオンラインショップの力を借りました。オンラインショップの存在は本当に偉大です。オンラインショップがいまほど発達していない時代には一体どうやって、マイナーなタイプのワインを集めていたのかと疑問に思ってしまいます。 (関連記事: WSET Diploma D1オンライン受講の感想⑤ ~テイスティング課題~ ) テイスティング課題の書き方にも、一部追加をされたものがありました。D1ではテイスティングノートを書くだけでよかったのですが、D4とD5

ナパヴァレーAVA(カリフォルニア)の覚え方を正攻法で考える

 ワイン学習において、ナパヴァレーAVAの暗記は難関だと思います。 いままで語呂合わせによる覚え方などを考えてきましたが、今回は正攻法による覚え方を考えてみたいと思います。 まず、ナパヴァレーの位置ですが、ナパ郡の西部の広い範囲に位置しています。そして、ソノマ郡とソラノ郡に挟まれたやや内陸に位置しています。 東西を、ヴァカ山脈とマヤカマス山脈に挟まれているために、東のセントラルヴァレーからの暖かい空気や、太平洋からの冷たい空気から守られています。 しかし南部はサン・パブロ湾に面しているために、ここからの冷たい海風や霧の影響を受けています。また、北部の一部も山脈が少しだけ途切れているために、ソノマ郡からやってくる涼しい空気の影響もやや受けます。 さて、ここから本題のナパヴァレーのAVAに関してです。 ナパヴァレーには、この地域全体をカバーするNapa Valley AVAと、その中に16の小地域のAVAが含まれています。覚えるのが難しいAVAは、この16の小地域のAVAです。 主だったAVAは、下の図のように、山の斜面と、谷底の川の近くに、南北に並んでいます。 数あるものを覚えるための1つの方法としては、それぞれの要素をグルーピングすることだと思います。 そこで、これらのAVAを、まずは山の斜面にあるもの(緑色)と、谷間にあるもの(無色)に分けてみたいと思います。 緑色のAVAではほとんどの畑が霧の冷涼効果を受けないフォグライン(Fog line)よりも高い標高に位置しています。一方で、無色のAVAの畑は霧の影響を受けるフォグラインよりも標高の低い場所に位置しています。 そして、次にサン・パブロ湾からの冷たい風と霧の影響を受ける度合によって、谷間のAVAを3つのグループに分けようと思います。南に位置するAVAほどその影響は大きく、北に位置するAVAほどその影響は小さくなります。 下図の青い地域は湾からの影響を大きく受け涼しい地域であり、赤い地域は湾からの影響はほとんどなく暖かい地域です。そして黄色はその中間くらいです。 谷間の南部のAVA まずは、谷間のAVAのうち、もっともサン・パブロ湾に近い地域にある3つのAVAです。 ・ロス・カーネロス(Los Carneros) ・クームズヴィル(Coombsville) ・オーク・ノール・ディストリクト(Oak Knoll

アメリカのワインの原産地名称は2種類ある?素朴な疑問

アメリカのワインの原産地名称と言えば、AVA(American Viticultural Areas=米国政府認定ブドウ栽培地域)が思い浮かびます。 しかし、調べてみると原産地名称がAVA以外のワインも存在します。それは、州名や郡名などの地方行政区画が原産地名称として表示されているワインです。 なぜ、AVAと行政上の区画の2種類の原産地名称があるのでしょうか?少し紛らわしく感じます。 また、この2種類の原産地名称は、原産地名称だけではなく、収穫年のラベル表示に対しても影響を与えます。 アメリカのワインはラベルに収穫年を表記するためには、その年のブドウを一定以上含んでいる必要がありますが、AVA表記のワインと、州/郡表記のワインでその割合は異なります。AVA表記ワインでは95%以上のブドウがその年のワインである必要がありますが、州/郡表記のワインでは85%以上で収穫年の表記が可能です。 このような2種類の原産地表記のワインがある理由について調べてみましたが、これにはAVA導入の経緯が関係しているようです。 AVAは、地質学的・地理学的にユニークな特徴を持つブドウ栽培地域としてアメリカ全土に適用されましたが、それ以前の原産地呼称は、州や郡の行政区画の境界線に基づいて指定されていたそうです。 そしてAVA導入の際、それらの原産地呼称はAVAに組み込まれることなく、そのまま残されました。 これが、2種類の原産地表記が残された経緯なのではないかと思います。 最後に、アメリカのワインの勉強をしていると次のような表をよく見かけます。産地の項目には、州、郡、AVAに加えて「畑」が並んでいますがこれは少し誤解を与えるような表だと思います。 調べた範囲ではアメリカのワインの原産地として認められているのは、「州・郡」、もしくは、「AVA」のいずれかです。「畑」については、、あくまでも条件を満たせば選択的に表記ができる項目であり、「州・郡・AVA」にとって代われるような原産地にはなりません。 しかしこの表を見ると、ブルゴーニュのように、あたかも畑が原産地として認められているかのような誤解を受けてしまいます。 以上、アメリカの原産地にまつわる疑問と、その考察をまとめてみました。 <了>

ワインのマッチを擦ったような香りはどこから来るのか?を考察

 ワインの中には、「マッチを擦ったような香り」を持つものがあると言われています。 このような香りはワインの香りに複雑性を与えるものとして、ポジティブにとらえられることが多いようです。 しかし、この香りが強くなりすぎると、次第に「腐った卵」のような不快な香りに感じられ、これは欠陥ワインの香りとして認知されています。 このような、「マッチを擦ったような香り」や、「腐った卵」の香りが一体どこから生まれてくるのかを考察してみたいと思います。 二酸化硫黄(SO2)? まず最初に、これらの香りの特徴は「硫黄化合物」に共通するものです。 ワインに使われる硫黄化合物でもっともポピュラーなものと言えば、二酸化硫黄(SO2)です。二酸化硫黄は常温では期待として存在し、別名、亜硫酸ガスとも呼ばれています。そして、二酸化硫黄は、ワインの酸化防止剤や防腐剤(抗菌剤)として用いられ、ブドウの収穫から醸造工程のさまざまな工程で用いられます。また、瓶詰めの際には一定量が添加されます。 二酸化硫黄はワインの変性を防ぐというメリットがある反面、人体に有害なことがあるために、ワイン中の上限濃度が大きく法律で厳しく規制されています。しかし、ワイン中の残留濃度は有害なレベルを大きく下回るもので、一般的には非常に安全なレベルと言われています。 さて、ではこの二酸化硫黄(亜硫酸)が「マッチを擦ったような香り」の原因でしょうか? どうやら、この二酸化硫黄は直接的な原因ではないようです。 二酸化硫黄は一部の自然派ワインを除いてほとんどのワインに使われている物質です。しかし、全てのワインが「マッチを擦ったような香り」を持っているわけではありません。 また、先述の通り二酸化硫黄の添加量はごくわずかであり、ワインの香りを変えてしまうような量が添加されているとも思えません。 「マッチを擦ったような香り」には別の理由があるようです。 還元臭 「マッチを擦ったような香り」や「腐った卵」の香りは、どうやら「還元臭」と呼ばれるものであるようです。 還元臭の原因は、揮発性硫黄化合物(VSC)に由来すると言われています。VSCはさまざまな硫黄化合物の相称です。 VSCは、アルコール発酵、澱熟成、瓶内熟成などのワインの醸造・熟成工程に発生します。 アルコール発酵工程においてVSCが発生する原因としては、酵母が発酵中に窒素不足のストレスに

カリフォルニアのワイン産地の冷涼効果を図にしてまとめてみた

  カリフォルニアはワイン産地としては緯度の高い地域です(北緯32~42度)。 そのため、冷涼効果がなければ高品質なワイン用のブドウの栽培はできません。 カリフォルニアの主な冷涼効果は、「海からの冷たい風」、「霧」、「標高」の3つです。 これらの冷涼効果が働くメカニズムを上のような図にしてまとめてみました。 ① 海からの冷たい風 カリフォルニアはワイン産地にしては緯度が低く、比較的日照の強い地域です。 陸地の空気はこの日照により暖められて上昇気流となり、代わりに海からの冷たい風が内陸まで入り込みます。この冷たい海風は海岸山脈の切れ目を縫って入り込むために、全ての場所がこの冷たい風の恩恵を受けられるわけではありません。 カリフォルニア付近の海風が冷たい理由は、カリフォルニア海流と呼ばれる寒流が関係しています。 この午後から夜間にかけて吹き込む冷たい風は、夜間の温度を下げるために、日中と夜間の温度の気温差(日較差)を生み出します。この気温差のおかげでブドウは高品質なワインに必要な酸を保持することができるとともに、糖分の成熟が緩やかになるために、香りやタンニンが十分に成熟します。 (関連記事: なぜ温暖な地域でのブドウ栽培には冷涼効果が好まれるのか?を考察 ) これ以外にも冷たい風が吹き込む影響は、カビのリスクの軽減や、霜のリスクの軽減にもつながります。 ② 霧の発生 海岸山脈を越えて内陸まで運ばれた湿気を含んだ空気は午後から夜間、明朝にかけて霧を発生させます。 これは午後から夜間にかけて気温が下がり、空気中の飽和水蒸気量が下がることが原因だと思われます。 霧はカリフォルニアの強い日照を遮ることで冷涼効果をもたらします。例えば明朝まで残った朝霧は、午前中の急な温度上昇を和らげます。 また、霧による日照の遮蔽はブドウの光合成にも影響を与え、ブドウの成熟のスピードを緩やかにすると考えられます。 このような霧の発生による冷涼効果ですが、この恩恵を受けられる地域は、海からの湿気を含んだ空気が入り込む、比較的標高の高くない地域に限られます。 ③ 標高 霧の届かないような標高の高い地域ですが、ここでは標高の高さによる冷涼効果が期待できます。 しかし、このような標高の高い地域は日照を遮るものが何もないために、ブドウは強い日照を受けることとなります。このような地域では、黒ブドウの色素やタ