今回のテーマは、ブルゴーニュの「コート・ド・ニュイ(Côtes de Nuits)」地区にある「 フラジェ・エシェゾー(Flagey-Echézeaux) 」村です。 場所は下の地図のように、モレ・サン・ドニ村、ヴージョ村、ヴォーヌ・ロマネ村の間に挟まれています。 コート・ド・ニュイの村名のワインが認められている他の村と比べると、特にそれほど小さい村でもありません。ヴージョ村やヴォーヌ・ロマネ村の方がよっぽど面積は小さめです。 しかし、このフラジェ・エシェゾー村ではその名を冠したAOCのワインを造ることは許されていません。つまり、「A.O.C. Flagey-Echézeaux」という名のワインは存在しません。 その代わり、この村で栽培されたブドウから村名を冠したワインを造る場合、全て「A.O.C. Vosne-Romanée」という隣の村の名前を冠したワインとして造られます。 なぜ、フラジェ・エシェゾー(Flagey-Echézeaux) には村名のワインが無いのでしょうか?少し疑問に思って、フラジェ・エシェゾーのブドウ畑について調べてみました。 まず、フラジェ・エシェゾーのブドウ畑の場所ですが、村名以上のワインを造ることのできるブドウ畑は、村の西側に局地化しているようです。村の中心地は、点線の楕円の部分に固まっているので、場所としては村の外れにあるようです。 この村の西側に局地化した畑のうち、大部分を占める畑は、特級畑である「エシェゾー(Echézeaux)」と「グラン・エシェゾー(Grands-Echézeaux)」です。 これら2つのグランクリュ畑から造られるブドウからは、唯一、フラジェ・エシェゾー村のアイデンティティの感じられる、「A.O.C. Echézeaux」と「A.O.C. Grands-Echézeaux」のワインが造られます。 残りの畑は、プルミエ・クリュ畑と村名ワイン畑となりますが、これらの畑で造られるワインはそれぞれ「A.O.C. Vosne-Romanée Premier Cru」と「A.O.C. Vosne-Romanée」となり、フラジェ・エシェゾー村の名前が使われることはありません。 それでは、ここでヴォーヌ・ロマネ村のブドウ畑の分布を見てみたいと思います。 これを見ると、ヴォーヌ・ロマネ村のブドウ畑は、フラジ...
JSA試験、WSET試験を通して酒精強化ワインであるシェリー(Sherry)を学んできましたが、ずっと疑問に思っていたことがありました。
それは、「パロ・コルタド・シェリーとは何なのか?」です。
シェリーとは、スペイン・アンダルシア州カディス県ヘレス・デ・ラ・フロンテーラとその周辺地域で生産される酒精強化ワインのことで、ポート・ワイン(ポルトガル)、マデイラ・ワイン(ポルトガル)とともに、著名な酒精強化ワインと言われています。
シェリーには、フィノ(Fino)/マンサ二ーリャ(Manzanilla)、オロロソ(Oloroso)、アモンティリャード(Almontillado)、パロ・コルタド(Palo Cortado)、ペドロヒメネス(Pedro Ximenez)など様々な種類があります。
しかし、JSA、WSETどちらのテキストにおいても、パロ・コルタドに関する記述
はとても少なく、製法に関する記述もなく、漠然とその特徴が書かれているだけでした。
その特徴は、
・希少であること
・アモンティリャード(Amontillado)の香りを持つが、味はオロロソ(Oloroso)のボディとこくを持つ
という2点だけです。
ずっと疑問に思っていたことを解決すべく、製法を中心にパロ・コルタドについて調べてみました。
参考にしたのは、次のサイトです:
https://www.sherrynotes.com/sherry-types/palo-cortado/
https://www.sherrynotes.com/2015/background/palo-cortado-mystery/
まずは、パロ・コルタドの発祥から。パロ・コルタドは、もともとフィノとしては不適合として除外された樽からできたそうです。
<パロ・コルタドの発祥>
------------------------------------------------------------------------・パロ・コルタドは、もともとフィノ(Fino)の製造から偶然生まれたワインと言われている。
・フィノシェリーでは、樽での熟成中にフロールと呼ばれる産膜酵母が発生し、フロールのもとで熟成される。しかし、フィノ樽の中には何らかの原因で、一定期間が経つとフロールが死滅してしまうものがある。
・フロールが通常通りに形成されない理由は、ベースワインの特徴や、樽の特徴、樽の周辺環境などにあると言われている。
・このような「フィノとしては不適合」なワインは、フロールのクリーンで鼻にツンとくる香りを持つ一方で、緩やかな酸化の影響でボディは徐々に重くなる。ここでワインは酒精強化され(約17-18度)、フロールは完全に死滅し、パロ・コルタドとして酸化熟成される。
・パロ・コルタドの樽はフィノのソレラシステムから外されるが、その印としてフィノの印である縦線(Palo)に斜めの線が交差される(Cortado)。
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この製法はアモンティリャードに近いのですが、パロ・コルタドはフロールのもとで熟成(生物学的熟成)のされる期間が短い(通常、最大3年)と言われています。
※生物学的熟成 … フロール(産膜酵母)がワインの表面を覆った状態での熟成。フロールのない状態の酸素にさらされた酸化熟成とは異なり、この熟成では二酸化炭素とアセトアルデヒドが生成される。生物学的熟成を経たシェリー(フィノなど)が特有の風味を持つのは、このアセトアルデヒドが原因。
しかし、ここで注意をしなければならないことありました!
今も上のような伝統的な製法で造られるものもあるようなのですが、現在の多くのパロ・コルタドは、これとは異なる方法で製造されているようなのです。
ワイン醸造手法の発達により、フィノの製造がより均一化され、パロ・コルタドになるような「フィノ不適合」ワインがほとんど生まれないことが理由のようです。
近代的製法として主流なのは、フィノに使うような繊細なフリーラン・ジュースをもとにして、オロロソの製法で造るという方法だそうです。普通のオロロソは、通常、より重みやこくのある2回目の圧搾ジュースを原料にして造られるのとは対照的です。
<近代的なパロ・コルタドの製法など>
------------------------------------------------------------------------・最近の最も一般的なパロ・コルタドは、軽やかで繊細なオロロソである。つまり、普段はフィノに使う最も繊細なフリーラン・ジュースを用いて、フローラを生成する代わりにオロロソのレベルにまで酒精強化をして、酸化熟成を行う。中には、酒精強化の前にフローラを生成して生物学的熟成を行うものもあるが、その期間は短い(6ヵ月~3年)。
・フィノやアモンティリャードの樽を選び、18度まで酒精強化をしてフローラの生成を妨げ、その後、酸化熟成をさせる製法もある。
・さらに、伝統手法とはかけ離れたような、アモンティリャードとオロロソをブレンドするだけで造られたパロ・コルタドもある。しかし、これは伝統的なパロ・コルタドに比べて複雑さや調和に欠ける。
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このように製法を見て行くと、伝統的製法から近代的製法までさまざまな方法があり、あまり統一感がありません。
どうやら、パロ・コルタドの製造にあたっては、特定の製造方法に従うよりも、Consejo Regulador(シェリー委員会)の定める「アモンティリャードの洗練された香りを持ち、オロロソのボディとこくを持つ」という特徴を満たすことが重要なようです。
いままで様々なテキストにパロ・コルタドの製法に関する記述がなかった理由がわかったような気がしました。
最後に、パロ・コルタドの伝統的な製法と、主流の近代的な製法を、他のシェリーの製造工程と比較をしてみました。(あくまでも個人的な見解によるものです)
製造方法が似通っていて、「パロ・コルタド・シェリーはアモンティリャード・シェリーとオロロソ・シェリーの両方に似た特徴を持っているため、その2種と区別するのは極めて困難」と言われる理由がわかります。
ちなみに、シェリー全体の年間販売本数が6千万本であるのに対して、パロ・コルタドの販売本数はわずか10万本だそうです(約1.7%)。
(関連記事:パロミノ種からできるシェリー酒のタイプと製造工程の個人的まとめ)