フェーン現象(föhn/foehn wind)とは、気流が山の斜面にあたったのちに風が山を越え、暖かくて乾いた下降気流となってその付近の気温が上がる現象をいいます。
平たく言うと、空気が山を越えた時に、山を越えた後の方が、空気の温度が高くなるということです。
「フェーン(föhn)」はもともと、アルプスの北側に雪解けをもたらす冬の南風を指すことばだったようです。それが、アルプス以外を超える風にも適用されて世界中に広まりました。「föhn」というドイツ語表記は、その経緯に由来をするようです。
フェーン現象の原因としては諸説ありますが、最も有名なのは「湿ったフェーン」と言われるもので、乾いた空気と湿った空気の標高に対する温度変化の違いが、気温差を生むというものです。
湿った空気が山を越える場合は高度が100m上がると気温が0.5℃ほど下がる場合でも、乾いた空気が下降する場合には100m下がると1.0℃ほど気温が上がるのだとか。結果として、同じ高度であっても、山を越える前よりも、超えた後の地域の方が気温が高くなります。
他にも、山頂付近の乱気流の影響や、雨雲がないことによる日照の影響など諸説ありますが、アルザス地方で発生するフェーン現象では、「湿ったフェーン」の影響が大きいのではないかと思います。
下図にアルザスで発生するフェーン現象をまとめてみました。
アルザスでは、西側から来た湿った風が、ヴォージュ山脈を越えることでフェーン現象が発生します。
湿った風はヴォージュ山脈の西にあるロレーヌ側で雨雲を作り雨を降らせます。そして、東部のアルザス側は、より乾燥した暖かい気温となります。
降水量を見てみると、ロレーヌ側のジェラールメでは1350mm、ル・オネックでは2000mmであるのに対して、コールマールで年間降水量は550mmほどと、実際にアルザス側には乾いた空気が流れ込んでいることが分かります。
アルザスはフランスでも北に位置する地域ですが、フェーン現象のおかげでブドウの育成期間の気温は上がり、乾燥した環境と長い日照時間もあいまって、ブドウの果実が十分に成熟することが期待できます。また、乾燥した環境は、ブドウ栽培にとって厄介なカビの繁殖も防いでくれます。
その反面、高い気温と乾燥した環境は干ばつのリスクをもたらします。特に灌漑の許可されていないAOCワイン用のブドウ畑では、夏場は特に注意が必要です。