ミュスカデ(Muscadet)は、主にフランスのロワール地方、ペイ・ナンテ地区で栽培されているブドウ品種です。
ミュスカデはシノニムとして、「ムロン・ド・ブルゴーニュ(Melon de Bourgogne)」や単に「ムロン(Melon)」とも呼ばれています。
調べてみると、ミュスカデという名前は、もともとこの地域で造られる白ワインの名称だったようで、それが徐々に品種名として呼ばれるようになったのではと思います。
さて、ミュスカデと言えば、シュール・リー(sur lie)スタイルのワインが有名です。シュールリーとは、「澱の上」を意味し、アルコール発酵後のワインを一定期間、澱と共に接触させておく醸造手法です。
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この地域には「Muscadet」という名前の含まれたAOCが4つありますが、シュール・リーを経たワインにはいずれのAOCにも「sur lie」という表記をラベルに追加をすることができるようです。
このように、ペイ・ナンテ地区ではシュール・リー スタイルのミュスカデワインが多く造られていますが、なぜシュール・リー スタイルが多用されるのかを独自に考察してみました。
なぜ、ミュスカデが多く栽培されているのか?
まず、ロワールは、北緯47°近辺に位置します。比較的涼しい地域です。
特に、ペイ・ナンテ地区は、大西洋に近く、海風の影響を受けるので、内陸部に比べて雨が多く、気温は低めです。
このため、この冷涼な地域で育ち、成熟するブドウ品種は限られます。
一方で、ミュスカデ品種の特徴は次の通りです:
- 丈夫な品種
- 比較的、早熟
- 高収穫が可能
つまり、冷涼で雨が多い地域でも、一定の成熟や収穫量が期待できるということです。比較的早熟であることは、秋雨を避けて早めに収穫ができることにもつながります。
実際に、18世紀にこの地域を寒波が襲った際に、黒ブドウ品種が大きな損害を受けてしまい、代わりにミュスカデが植えられたという歴史もあるようです。
ミュスカデから造られるワインの特徴は?
ミュスカデから造られるワインの特徴は次の通りです:
- 酸味が高い
- ライトボディ
- 低めのアルコール度
- 香りは弱め(青りんごの香り)
つまり、酸味の強さに対してボディの軽いワインとなり、痩せた印象のワインになりがちだということです。
実際、20世紀までにミュスカデのワインは、均質でシンプルであるという評判から、徐々に人気を落としていった歴史があるようです。
そして、この問題を解決するために取り入れられたのが、シュール・リーという手法のようです。
シュール・リーのメリットは?
シュール・リーは、本来であれば非常にライトボディとなるミュスカデワインのボディを補うことができます。
また、口当たりがまろやかになることも、シュール・リーのメリットの1つです。
シュール・リーは、本来、酸味の際立ったライトボディとなるワインを、よりバランスの良いものにしてくれるのが大きなメリットです。
これが、ロワールのミュスカデの多くがシュール・リー スタイルに造られる理由なのではないかと考察をしました。
シュール・リーを経たワインの特徴は?
先ほどのメリットを含み、シュール・リーを経たワインは次のような特徴を持つと言われています:
- ボディが増す
- 口当たりがよくなる
- 新鮮さが保たれる
- 澱の香りが加わる(ヨーグルト、パン生地、ビスケットのような香り)
- 微量な炭酸を含む(二酸化炭素が発生するため)
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