シャブリ・ワイン(シャブリ地区で造られるAOCワイン)は、全てシャルドネ種から造られる白ワインです。 シャブリはワイン産地としてはブルゴーニュに属していますが、コート・ドールなどのブルゴーニュのその他の地域と比べるとかなり北に位置しています。 どちらかというと、ブルゴーニュよりもシャンパーニュがすぐ近くにあり、また、内陸であることもあり、気候としてはかなり寒い地域であることがわかります。ちなみに、シャンパーニュでスパークリングワインが多く造られている理由の1つは、果実が十分に熟さないことがあり、シャブリでスティルワインを造る難しさが何となく想像できます。 そんな寒い気候の中で造られるシャブリのワインは、高い酸味とすっきりとした味わいが特徴の辛口ワインです。 シャブリ・ワインは品質レベルによって大きく次の4つに分けられています: - Petit Chablis(プティ・シャブリ) - Chablis(シャブリ) - Chablis Premiers Crus(シャブリ・プルミエ・クリュ) - Chablis Grands Crus(シャブリ・グラン・クリュ) ワインのラベルを見ると、そのワインがどの品質レベルのワインなのかは一目瞭然です。通常、4つのいずれかが大きくラベルに書かれているはずです。 最上級のグラン・クリュとプルミエ・クリュのワインの場合には、クリマと呼ばれる畑の名前が書かれている場合があります。 では、この4つのワイン、それぞれに何が異なるかというと、ブドウの栽培環境が大きく異なります。そして、それによって、出来上がるワインの味わいに違いが生まれます。 シャブリでは特に、斜面の性質と、土壌の違いが、大きく栽培環境の違いに寄与していると言われています。4つのワインの栽培環境の違いを、斜面と土壌の特徴でまとめてみると次のようになります。 基本的には、 プティ・シャブリ ↓ シャブリ ↓ プルミエ・クリュ ↓ グラン・クリュ の順番に、果実がより成熟しやすい環境にあり、より果実の凝縮度と骨格を持ったワインができあがります。 ワインの長期熟成能力(ワインを熟成させて品質の上がる可能性)は、基本的には果実味の凝縮度と骨格(特に酸味)で決まるので、プティ・シャブリは早飲みに適しており、グラン・クリュは長期熟成に適するワインとなります。 次に、考察されるそれ...
「樽熟成」は、ワインの醸造工程の「熟成(エルヴァージュ; Elevage)」で行われる一つの手法です。熟成とは、発酵が終わったワインをタンクまたは樽に移し替えて、しばらくの期間静置し、ワインのバランスや風味を向上させることです。樽熟成させる場合には、ワインが一定量蒸発するために、定期的な補填作業(ウイヤージュ; Ouillage)が行われます。
この「樽熟成」はワインの醸造工程の中でも複雑な要素が絡み合い、とても分かりにくい部分だと思います。少なくとも、個人的にはそうでした。
その反面、JSA教本やWSETのテキストを見ても、樽熟成については主に表面的な効果のみに触れられているだけで、ワインの中で一体どんなことが起きているのかについての詳細な説明はあまり見つけることができませんでした。
例えば、JSA教本には次のような「樽熟成の主な効果」についての記述がありましたが、当時はあまり内容も分からずに、ひたすら字面だけ覚えようとしていました。
樽熟成の主な効果
------------------------------------------------------------① 酸素との接触
② 清澄化の促進
③ 樽からの成分抽出(タンニン、ココナッツ香など)
④ 赤ワインの色調の安定化
⑤ フェノール成分の重合による沈殿
⑥ 風味の複雑化
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そこで、今回、これらの「樽熟成の主な効果」について、もう少し踏み込んでみようと思い、それぞれが具体的にどんな現象や化学反応を意味しているのかを個人的に調べてみました。
それぞれの効果の詳細
① 酸素との接触
・木樽は気密ではないために、少量の酸素が木樽の隙間や、栓付近を通して樽内に入り込み、ワインと反応をする。(新樽が最も酸素透過率が高い)
・酸化の程度は、木樽のサイズとワインを貯蔵する期間によって異なる。バリックなどの小樽は、大樽に比べて、ワインが樽と接する表面積が大きくなるため、酸化の影響は大きくなる。
・容器をワインで満杯にしなければ、酸素との接触が増えて、酸化の効果はさらに高まる。この方法は、シェリーやポートなどの酒精強化ワインに用いられる。
② 清澄化の促進
・樽熟成中には、ワインに含まれる成分が反応しあい、重力で容器の底に沈む粒子を形成し、定期的に取り除かれる。
・例えば、木樽を透過した酸素はポリフェノール(polyphenol)を酸化させ、木樽内に黒い沈殿物を形成する。
※ポリフェノールとは、フェノール類の中でもより大きな分子構造を持つ物質である。ポリフェノールの中には、タンニンや、フラボノイド、アントシアニン(アントシアニンはフラボノイドに含まれる)などが含まれる。
・また、ワインが澱と熟成されている場合は、死んだ酵母は多糖(polysaccharide)と呼ばれる物質を放出し、これは天然の清澄剤として働き、木樽由来のタンニンを減らすと言われている。
③ 樽からの成分抽出(タンニン、ココナッツ香など)
・木樽熟成を行うことで酸化によってワインは新たな風味を帯びるが、主な木樽の素材であるオークそのものからもワインにはタンニンと風味が抽出される。
・タンニンはワインに骨格を与え、また、オークからは「トースト、ヴァニラ、燻製、クローブ、カーネーションなど」といった香りと風味がワインに与えられる。
・樽のトーストが強いほどワインの香りや風味への影響は大きいと言われている。最もよく知られているヴァニラ香は、木樽中のリグニン(lignin)がトーストにより分解されて生成されたバニリン(vanillin)に由来するものである。
・また、「トーストされたパン、キャラメル、ココア、コーヒー、甘いスパイス、ローストアーモンド」の香りが木樽中のヘミセルロース(hemi-cellulose)に由来する物質から生成される。
④ 赤ワインの色調の安定化
・若い赤ワインの色は主にアントシアニン(anthocyanin)に由来する色であるが、この色は不安定であると言われている。
・ワインが熟成をすると、酸素の働きによりアントシアニンはタンニンと結合し、より安定した色素性の重合体を形成する。この反応は「酸化カップリング」と呼ばれている。
⑤ フェノール成分の重合による沈殿
・木樽を透過した酸素は、ポリフェノール(polyphenol)を酸化させ、木樽内に黒い沈殿物を形成する。これにより、赤ワインのタンニンは和らげられ、より柔らかく、シルキーな味わいになる。
※フェノール成分とは、タンニンやアントシアニンを含むフェノール類の総称である。
⑥ 風味の複雑化
・木樽熟成を行うことで、ワインにさらなる香りを追加し、ワインの複雑性を増すことができる。
・ワインの熟成中にわずかな酸化が起こり、ワインは第三の香りを帯びる。また、主な木樽の素材であるオークそのものからもワインにはタンニンと風味が抽出される。また、時間が経つにつれて、ワインに含まれる成分が反応しあい、ワインの風味やバランスに変化が起きる。
・ワインに与えられる香りの強さの程度は、樽が使われた回数(使用年数)、樽中での熟成期間の長さ、樽のサイズによる。また、樽の生産方法、オークの種類と産地なども、与える香りに影響を与えると言われている。新樽が最も強い香りを与えることができる。
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