北ローヌと南ローヌは、同じローヌ地方に位置しますが、調べてみるとブドウの栽培環境も、造られる主なワインのタイプも異なります。
そこで、栽培環境が造られるワインに与える影響を考察してみました。
栽培エリア
まず、栽培エリアですが、北ローヌ、南ローヌは次のように位置しています。
ぱっと見てまず気が付くのはその栽培面積の違いです。
南ローヌの栽培面積は北ローヌの栽培面積の10倍を優に超えるかなりの広さがあります。ブドウ畑はローヌ川を中心としていますが、川からも離れたかなり広範囲に分布しています。
一方で、北ローヌの栽培エリアをよく見てみると、ブドウ畑はローヌ川にごく近いわずかな面積の場所に位置しているのみです。
気候
気候は、北ローヌは「温和な大陸性気候」であるのに対し、南ローヌは「温暖な地中海性気候」です。
北ローヌがより涼しい「温和な大陸性気候」である理由は、北ローヌがより緯度が高い北部の内陸に位置していることが理由です。
温和な大陸性気候の特徴は、暑く短い夏と、寒く厳しい冬です。このような気候ではブドウの成熟のための十分な生育期間を確保できないために、ブドウ畑は少しでも暖かさと日照を確保できる日当たりの良い斜面につくられます。そしてそのようなブドウ畑は、ローヌ川によってつくられる斜面に限られます。これが、北ローヌのブドウ畑の栽培面積が小さく、ローヌ川沿いの狭い地域に密集している理由だと思います。
一方で、南ローヌが「温暖な地中海性気候」である理由は、南ローヌがより緯度が低い南部の地中海近くに位置していることが理由です。
温暖な地中海性気候の特徴は、暑く乾燥した夏と、比較的温和な冬です。このような気候はブドウ栽培に好ましい環境であり、広い範囲で十分にブドウを成熟させることができます。このような気候条件と、作業のしやすい平地の多さも相まって、南ローヌでは広いブドウ畑が確保できるのだと思います。
地形
北ローヌのブドウ畑は、気候の部分で説明をしたように、多くが川の近くの斜面に位置しています。
斜面の畑には暖かさや日照時間というメリットがありますが、それ以外にも、水はけの良さや、ローヌ特有のミストラルと呼ばれる強い北風からブドウ樹を保護するというメリットもあります。
しかしその反面、斜面の畑には機械を持ち込むことができないために、全ての作業を手作業で行わなければならず、人件費がかさんでしまうというデメリットもあります。
急な斜面では一般的なブドウ棚の利用もできず、棒仕立てと言われる特殊な仕立て方法が用いられ、これも栽培コストを増加させる要因となります。
(関連記事:棒仕立て、ミストラル、混醸... ローヌ川流域北部のブドウ栽培とワイン造り)
一方で、南ローヌのブドウ畑の多く北ローヌと比べるとより平らな場所に位置しています。そのために、南ローヌではより機械を利用した作業が容易であり、人件費を抑えることができます。
南ローヌはブドウ栽培に適した雨の少ない暖かい気候であり、ブドウ樹のカビや病気のリスクが比較的低い地域です。これも人件費を抑える要素になっていると思います。
まとめ
北ローヌの栽培環境をまとめると、小さい栽培面積、ブドウ栽培とっては涼しい気候、人件費のかかる険しい斜面のブドウ畑です。
このような地域では、低コストのワインを大量に作っても、収穫量や栽培費用の面から採算がとれません。採算をとるためには、高品質で比較的価格帯の高い価格のワインを生産量を限定して造る必要があると思います。
実際に、北ローヌで造られるワインのほとんどがクリュレベルと言われる品質の高いワインです。これらのワインは、収量を制限したブドウから、ある程度の手間暇をかけて作られます。
一方で、南ローヌの栽培環境をまとめると、大きい栽培面積、ブドウ栽培にとって理想的な気候、人件費を抑えられる比較的平らなブドウ畑です。
このような地域では、低コストのワインを大量に作っても、十分な採算をとることができると考えられます。また、栽培環境が特に良い場所では、北ローヌのような高品質なワインを製造量を制限する方法でも採算をとることができると思います。
実際に、南ローヌでは大量生産ワインが多く製造され、生産量でいうと比較的品質の低いIGPワインやCote du Rhoneワインが多くを占めています。
また、南ローヌでは並行して、Chateauneuf-du-Papeのような品質の高いクリュワインも量は多くはありませんが製造されています。
ローヌという名前を冠していると、同じようなワインが造られているような印象を持ってしまいますが、調べてみると大きな違いがあることが分かりました。
<了>