ワイン選びはある程度の知識がないと難しいと言われます。
なぜワイン選びが難しいのかをフランスのワインを使って考察してみました。
まず、ワインを選ぶ際に、最初に調べる情報は次のようなものだと思います。
-----------------------
・タイプ(スティル?泡?酒精強化?)
・色(赤?白?ロゼ?)
・原産国(フランス?イタリア?アメリカ?…)
・価格
-----------------------
これらの情報は、お店のポップを見れば書いてあるので、探すのに苦労するような情報ではないと思います。
また、外観や裏ラベル、ボトルの形状からもある程度分かると思います。スパークリングワインなどは瓶の口元の形が特徴的です。
しかし、そのワインの味わいがどのようなものかを知ろうと思うと、一気に難易度があがります。
例えば、次のラベルのワインからその味わいを知ろうと思ったら、ある程度の事前知識を持っている必要があります。
味わいの手掛かりとしては、まずは使われているブドウ品種を知ることです。しかし、品種に関する情報はどこにも書いてありません。
まずは、品種の情報が無いことが、ワイン選びを難しくしている理由の1つだと思います。
ちなみに、ある程度のワインの知識がある人が注目するのは下図の赤い下線の部分です。
「Appellation d'Origine Contrôlée」と書かれていることで、これがAOCレベルのワインであることが分かります。
AOCレベルのワインは、各産地ごとに厳しい栽培・醸造ルールに則って生産されているワインのことであり、産地によって生産できるワインの色や利用できるブドウ品種も決められています。AOCはフランスで適用されているルールですが、似たようなルールがヨーロッパ全体で運用されています。
従って、このワインの産地が分かればブドウ品種も分かることとなります。
そして、ワインを少しでもかじったことがある人は、「Mâcon Villages(マコン・ヴィラージュ)」が産地を表しているとすぐに分かり、頭には次のような地図が思い浮かぶと思います。
マコン・ヴィラージュの「マコン」とはマコネ地区にある街の名前であり、ワインで有名なブルゴーニュ地方に含まれています。
ブルゴーニュ地方のAOCレベルの白ワインはほとんど全てが「シャルドネ種」から造られています(コート・シャロネーズ地区のBouzeron AOCのアリゴテ種のワインなどの例外もあります)。
これで、このワインに利用されている品種が「シャルドネ」であることがわかるわけです。
利用されている品種がシャルドネであることは分かりましたが、これだけではまだワインの味わいがわかるわけではありません。
味わいを知るにはシャルドネという品種についての知識が必要となります。ワインの味わいはブドウ品種によって大きく異なると言われています。
このブドウ品種についての知識もワイン選びを難しくしている理由の1つだと思います。
白ブドウ品種は大まかに分けると、品種独自の香り・風味の強いアロマティック品種と、それが比較的に弱いニュートラルな味わいの品種に分けられます。
アロマティック品種から造られるワインの多くでは、品種独自の香り・風味を生かしたワイン造りが行われます。そのため出来上がるワインの味わいは、芳香や果実味が強調されたものになると言われています。
一方で、ニュートラルな品種から造られるワインの多くでは、品種由来の香りが弱いため、その他の香りがより強調されるワイン造りが行われると言われています。その香りとは、醸造工程において二次的に付けられる香りであり、乳製品の香り(マロラクティック発酵による)や、酵母の香り(澱との熟成による)、コーヒーやスパイスの香り(樽熟成)などが含まれます。
シャルドネは、ニュートラルな味わいの品種に分類され、しばしば乳製品や澱、樽の香りが付加されることで有名です。このようなワインはより「savouryな(旨味のある)」ワインとも表現されます。
このような品種についての知識があることで、この「マコン・ヴィラージュ」のワインの味わいも何となく分かるようになるわけです。
最後に、このワインの品質レベルについてです。
マコネ地区で造られるAOCレベルのワインには品質の異なるいくつかのワインがあります。ワインの知識がある人は、次のようなピラミッドが頭に思い浮かぶかもしれません。
このピラミッドの中で、マコン・ヴィラージュは上から2番目の階層に位置しています。上から2番目というと、とても品質の高いワインのように思えますが、ブルゴーニュ全体でいうと最下層のレジョナルレベルのワインなのでそれほど品質が高いわけでもありません(マコネ地区で造られる最も高いレベルのワインは村名ワインです)。
つまり、マコンヴィラージュAOCのワインは、非常に品質が高いわけではなく、そこまで低いわけでもなく、そこそこの品質のワインであるということです。
ワインの品質レベルは、使われているブドウの品質と、用いられている醸造手法と大きな関係があり、これを知ることでワインの味わいを推測することができます。
このワインの品質レベルの知識や、それとワインの味わいとの関係に関する理解もワイン選びを難しくしている理由の1つだと思います。
ブルゴーニュのシャルドネワインは、マロラクティック発酵や、澱との熟成により、ワインに果実味以外の異なる風味を持たせるものが多くみられます。
特に、十分に成熟した高品質のブドウから造られるワインには、新樽による長期間の熟成を経て、樽の風味を加えるものもあります。
しかし、マコン・ヴィラージュの品質レベルはそこまで高くないために、新樽による長期熟成を経ていない可能性が高いことが想像されます。
そのため、この「Mâcon Villages(マコン・ヴィラージュ)」というラベルからは、まずまずの果実味と、マロラクティック発酵による乳製品の風味、場合により澱との熟成によりまろやかさが加えられた、ミディアムボディくらいの白ワインという味わいが想像できます。
また、マコネ地域の温和な気候を考えると、果実味は緑色果実(リンゴ)、柑橘類(レモン、グレープフルーツなど)程度の成熟度で、酸味は中程度であるということも想像できます。
このように、ワインの知識があると「Appellation d'Origine Contrôlée」、「Mâcon Villages」という情報だけでワインの味まで想像することができますが、知識を持ち合わせていない場合は、味わいに関する情報はほとんど得ることができません。
これが初心者にとってワイン選びを難しくしている要素なのではないかと考察します。
<了>