フランスのロワールでは、地域によって主に生産されている白ブドウ品種が異なります。
アンジュ―&ソミュール地区とトゥーレーヌ地区における主要な白ブドウ品種は「シュナンブラン」である一方で、サントル・ニヴェルネ地区では「ソーヴィニヨンブラン」です。
シュナンブランが、アンジュ―&ソミュール地区とトゥーレーヌ地区の広域で栽培されているにもかからわず、なぜサントル・ニヴェルネ地区で一気に生産されなくなるのかを、シュナンブランの特徴をもとに考察してみました。
まず、シュナンブランの特徴と言えば...
・萌芽が早く(春の霜にやられやすい)、晩熟(秋の雨にやられやすい)
・樹勢が強い品種である(十分な水と栄養を与えれば高い収量が得られる)
・ボトリティス菌に侵されやすい(甘口ワインの醸造にはボトリティス菌は良い影響を与える)
・うどんこ病や幹の病気にもかかりやすい
・果実の熟し方にばらつきがある(高品質のワインを造るためには、選果をしながら収穫する必要がある)
・酸味が強い
・非芳香族系品種である
・スパークリングワイン、辛口、オフドライ、甘口など様々なスタイルのワインを生産するロワール中流域の主要品種
・ロワール地方では、青リンゴやレモンのアロマを持つ(鉄っぽさやスモーキーさを伴うこともある)
・南アフリカで最も栽培されている品種(辛口、甘口、貴腐ワイン、スパークリングワイン、酒精強化ワインが生産されている)
・南アフリカでは、熟した黄色いリンゴや桃のアロマに、トロピカルフルーツのニュアンスが感じられる
などです。
このうち、栽培における重要な特徴は、「萌芽が早く」、「晩熟」という部分です。
ロワール中流域の気候は、ブドウ栽培にとっては涼しい気候ですが、大西洋の影響を受けて年間の寒暖差はやや緩和されています。
また、海洋性の影響を受けますが、ペイナンテ地区ほど春や秋の雨に悩まされることもなく、早霜のリスクもそれほど大きくはないと考えられます(内陸にいくほど大陸性気候の影響を受けることで、冬と春の気温差がはっきりして、萌芽の時期が均一になるため)。
このようにロワール中流域のアンジュー&ソミュール地区とトゥールーヌ地区では、春から秋まで十分な生育期間が確保できるので、シュナンブランのような萌芽が早く晩熟な品種でも十分に栽培できると考えられます。また反対に、ロワールのような冷涼な地域で、春から秋まで十分な期間を活用してゆっくりと成熟をさせられるシュナンブランが栽培できることは、ロワールにとっては大きな強みになっているのではないかと思います。
一方で、サントル・ニヴェルネ地区の気候は、冷涼な大陸性気候です。大陸性気候の特徴は、夏と冬の寒暖差が大きく、ブドウの生育期間である夏場が短いということです。
生育期間が短いために、萌芽が早く晩熟なシュナンブランを栽培するのには向いていません。これが、サントル・ニヴェルネ地区でシュナンブランがあまり栽培されない理由だと考えられます。
サントル・ニヴェルネ地区で最も栽培されている白ブドウ品種はソーヴィニヨンブランです。
ソーヴィニヨンブランの特徴は、
・萌芽が遅く、比較的早熟である
・樹勢が強い
・うどんこ病、ボトリティス菌、幹の病気(ESCAなど)にかかりやすい
・果実が十分に熟さないと過度に青い香りを持つ
・グーズベリー、パッションフルーツ、草、ピーマン、アスパラガスなどの強い香りを持つ
などです。
「萌芽が遅く、比較的早熟である」という特徴は、生育期間の短い、冷涼な大陸性気候に非常に向いた特徴です。
そのため、サントル・ニヴェルネ地区ではソーヴィニヨンブランが多く栽培されているのだと考えられます。
<了>