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9月, 2022の投稿を表示しています

最新記事

ワインから感じられる「スギ」の香りとは?(考察)

 ワインの香りを表現する際に、しばしば 「スギ」 という言葉が登場します。 この「スギ」という言葉は、おそらく英語の「Cedar」に由来しており、Cedarは正確には日本のスギと異なるセイヨウスギを意味します。 厳密には、日本のスギは、マツ綱のヒノキ科スギ属で日本固有種であり、Cedar は、マツ目マツ科のヒマラヤスギ属です。 香りとしては、スギもCedar(ヒマラヤスギ)も一般に、 森林浴を思わせる爽やかさや清涼感を香り を持つと言われています。基本的には、 「スギ」 も 「Cedar」 を似たような香りを持っているようです。 さて、ワインにおいて 「Cedar」 という言葉が使われる場合、多くの場合、これは 樽熟成を経た赤ワイン に対して使われます。「Oak」という表現に類似しており、 ワインが持つ木の香り を表す言葉として使われます。(※樽熟成の代わりにオークチップを使った場合でも感じられるようですが、その香りは弱くなるようです) そのため、香りのタイプとしては通常、 第2の香り(ワイン醸造に関係する香り) に分類されています。 また、ブドウ品種としては 「カベルネ・ソーヴィニヨン」 によく使われる言葉としても知られています。 カベルネ・ソーヴィニヨンは、製造工程において、比較的、 長期の樽熟成を伴う ことの多いブドウ品種です。そのため、ワインはオーク樽由来の木の香りを帯びることが多く、このような表現と相性が良いのだと思います。 また、カベルネ・ソーヴィニヨンは品種由来の香りとして、 「メンソール」 や 「ハーブ」 のような 青さや清涼感のある香り を持つことで知られています。これが樽熟成に由来する木の香りと相まって、森林浴を思わせる爽やかさや清涼感をもつ 「Cedar」 や 「スギ」 という表現用語で表されるのだと思います。 時々、カベルネ・ソーヴィニヨンの品種特徴として「スギの香り」と書かれていることがありますが、樽熟成を伴わないカベルネ・ソーヴィニヨンからはもしかしたらスギの香りは感じられないかもしれません。 一般的に、「スギ」や「Cedar」の香りを持つ赤ワインは、フレンチオークで熟成されたものであると言われています。例えば、ボルドーの赤ワインや、高品質なナパバレーのカベルネ・ソーヴィニヨンなどがこれに当たります。 アメリカンオークが樽熟成に使われた場

南欧(イタリア、スペイン、ポルトガル)の赤ワインの違いを知る!南欧の代表品種の比較テイスティング

いままで個人的に比較テイスティングをすることの少なかった、イタリア、スペイン、ポルトガルの土着品種から造られた赤ワインのテイスティングをしてみようと思います。 目的は、それぞれの品種やワインの特徴を捉えることです。 1種類のワインだけを味わってその特徴を捉えるだけのテイスティング能力を持ち合わせていないので、とりあえず産地の近いワインを並べてみようと思います。 今回選んだワイン(品種)は次の通りです: ワイン①: ヴァルポリチェッラ・クラッシコ(品種:コルヴィーナ・ヴェロネーゼ) ワイン②: バローロ(品種:ネッビオーロ) ワイン③: キアンティ・クラッシコ(品種:サンジョヴェーゼ) ワイン④: リオハ・リゼルヴァ [伝統的な樽香強めのスタイル](品種:テンプラニーリョ) ワイン⑤: リオハ [モダンな樽香弱めのスタイル] (品種:テンプラニーリョ) ワイン⑥: ドウロ(品種:ティンタ・ロリス、ティンタ・バロッカ、トウリガ・フランカ、トウリガ・ナショナルのブレンド) 具体的なワイン名は次の通り: ① Bonacosta Valpolicella Classico Masi 2018 ② Terre del Barolo Barolo 2015 ③ Rocca Guicciarda Chianti Classico Riserva Barone Ricasoli 2012 ④ Dominio de Ugarte Reserva 2013 ⑤ Remelluri Lindes de Remelluri Viñedos de Labastida 2014 ⑥ Quinta dos Avidagos Douro Tinto Reserva 2016 外観 まずは外観の特徴の比較です。 特徴的なのは、バローロの色の淡さです。ネッビオーロ種は、かなり色が薄くなる品種のようです。 一方で、リオハとドウロは色の濃さが特徴です。特にドウロは漆黒のような濃い色です。 香り 次は香りの特徴の比較です。 それぞれのワインについての主だった香りの感想は次の通りです。あくまで個人的な感想です。 ヴァルポリチェッラは、比較的シンプルな赤系果実の香りの中に、甘いリコリスの香りが感じられます。 ネッビオーロとサンジョヴェーゼはどちらも赤系果実の香りの中に、枯れたようなドライハーブの香りが感じられ、と

ブドウ栽培で涼しさはなぜ必要? ~温暖地域で冷涼効果が好まれる理由を考察

比較的暖かい地域でブドウ栽培をする場合、高品質なブドウを作るためには海風や標高による冷涼効果が必要だと言われます。 アメリカ(カリフォルニア)、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンなどのヨーロッパよりも暖かい国々において高品質なブドウを造る産地には、例外なく冷涼効果が存在すると言われます。 例えば、カリフォルニアのソノマやナパヴァレーは、寒流であるカリフォルニア海流によってブドウ畑が冷やされます。 アルゼンチンのメンドーサでは、アンデス山脈の標高によるブドウ畑の冷涼効果が得られます。 このような比較的暖かい地域の高品質なブドウ栽培において、なぜ冷涼効果が好まれるのかを考察してみました。 結論から言うと、冷涼効果が必要な理由は次の2点ではないかと思います。 ・果実の成熟が遅くなり、香り/風味やタンニン(+色素)が十分に成熟する ・ブドウの酸味が保持される 果実の成熟が遅くなるとなぜ良いのか? 温暖で、比較的乾燥した気候はブドウ栽培にとって理想的な環境です。しかしこのような環境では、ブドウに糖分が最も早く蓄積する傾向があると言われます。ブドウの糖の蓄積は、ブドウの蒸散速度と相関関係があり、涼しく湿気の多い条件よりも暖かく乾燥した条件の方が、蒸散速度が速くなるためです。 暖かく乾燥した気候では、この糖の蓄積が速すぎて、香り・風味やタンニン、色素などが十分に熟成する前に、ブドウの糖度が高くなりすぎてしまいます。 この場合、ブドウの糖度が高くなりすぎる前にブドウの収穫を行うと、香り・風味やタンニン、色素などは未熟なままとなってしまいます。 一方で、(天候が許す場合)香り・風味やタンニン、色素などの成熟を待ってから収穫を行うと、ブドウの糖度は高くなりすぎてしまい、結果として製造されるワインのアルコール度が高くなりすぎてしまうかもしれません。 どちらの場合でも、糖度の蓄積が早すぎて、ブドウは品質面において何らかの問題を抱えていることになります。 この概念をチャートで表すと次のようになります。 今度は冷涼効果がある場合を考えます。 冷涼効果がある場合、ブドウ畑の平均的な温度は低くなるために、温度と相関性のある糖度の蓄積は遅くなります。 先程の場合と比べると、糖度の蓄積のみが、香り・風味やタンニン、色素の成熟よりも大きく先走ることはありません。 そのため、理想的な場合、糖とその他

南アフリカのワイン産地の自然環境のざっくりまとめ

南アフリカのワイン産地の自然環境をざっくりとまとめてみたいと思います。 まず、南アフリカは、南緯22°~34°に位置する暑い~暖かい地域です。 一般に、ワイン用のブドウ栽培ができる地域は北緯/南緯30°~50°と言われているので、南アフリカの南端でも、ブドウ栽培にはかなりギリギリの地域です。 南アフリカの南端には、 「西ケープ州」 があります。実際、南アフリカのワインのほとんどはこの州で生産されています。 しかし、それでも西ケープ州の緯度は南緯30°~34°くらいです。 このような暖かい地域でも高品質なワインが造ることができる原因は、寒流である 「Benguela(ベンゲラ)海流」 と、その冷涼効果を高めてくれる 「Cape Doctor(ケープドクター)」 と呼ばれる南東の風にあると言われています。 ベンゲラ海流の冷涼効果は、西ケープ州の西岸から、アフリカ大陸先端のアガラス岬の辺りまで広がるようです。 一方で、大陸の東側にはアガラス海流と呼ばれる暖流が流れており、海流による冷涼効果は得られません。 ところで、南アフリカの原産地呼称制度は、生産地を大きさにより4種類に分類してます。 大きい順に、「 Geographical Unit(地理的区域)>Region(地域)>District(地区)>Ward(小地区) 」の順です。 西ケープ州 は、 Geographical Unit(地理的区域) にあたり、この中には5つの Region(地域) が含まれています。 それらは、 「Coastal Region(コースタル・リージョン)」 、 「Breede River Valley(ブレード・リヴァー・ヴァレー)」 、 「Cape South Coast(ケープ・サウス・コースト)」 、 「Olifants River(オリファンツ・リヴァー)」 、 「Klein Karoo(クレイン・カルー)」 です。 これらの地域は、自然環境から受ける影響の違いにより、異なるワインを製造します。 コースタル・リージョン は、5つの地域のうち、ブドウの栽培面積が最大の地域です。しかし、比較的低収穫の中~高価格のワインが多く製造されているために、ワインの生産量は必ずしも最大というわけではありません。 この地域は、海沿いは寒流やケープドクターによる冷涼効果、また、内陸の山岳地域は標高によ

ワインの揮発性の酸(VA)とは?

ワインの書籍を読んでいると、ワインの欠陥を表す用語として 「揮発性の酸(VA = volatile acidity)」 という言葉が出てきます。 揮発性という観点から見ると、酸には大きく分けて2種類あり、揮発性の高い(蒸発しやすい)酸と、揮発性の低い(蒸発しにくい)酸があるそうです。 不揮発性の酸は主に味覚で感じられますが、揮発性の酸の特徴は、その名の通り気体になりやすいために、主に香りとして感じられると言われます。 ワインに含まれる主要な酸である、酒石酸(tartaric acid)やリンゴ酸(malic acid)、乳酸(lactic acid)は全て揮発性の低い 「不揮発性の酸」 です。 一方で、ワインに含まれる 「揮発性の酸」 はそのほどんどが酢酸(acetic acid)です。 酢酸は、ワインの発酵過程で酢酸菌(acetic acid bacteria)の媒介によりアルコールから生成され、全てのワインに含まれていると言われます。 酢酸はまた、ワイン中のアルコールと反応をして酢酸エチル(ethyl acetate)を作り出すと言われています。酢酸エチルの特徴は、マニキュアの除光液の香りやシンナーの香りと言われています。 酢酸および酢酸エチルは、少量が含まれる場合には、芳香性や複雑性などワインにポジティブな影響を与えると言われます。しかし、大量に含まれる場合には、不快な香りとして感じられます。これが、 「揮発性の酸(VA)」 がワインの欠陥を表す用語として使われる理由のようです。 揮発性の酸(酢酸)は一般的に、古い樽や酸化的な環境で造られたワインに多く含まれると言われています。酢酸菌は酸素の存在下で活発に働き、アルコールを酢酸に変えるためです。 揮発性の酸(酢酸)は、天然酵母を用いたアルコール発酵の際にも発生しやすいと言われます。 また、ボトリティス・シネレア(貴腐菌)を使って作られた甘口ワイン(ソーテルヌなど)は、ブドウに酢酸菌が自然に多く存在する傾向があるので、揮発性酸度が高くなることが多いと言われます。干しブドウから作られたワイン(アマローネ・デラ・ヴァルポリチェッラなど)も同様です。 しかし、当然、これらのワインには通常、欠陥と言われるレベルの揮発性の酸(酢酸)は含まれていません。

カベルネソーヴィニヨンとシラーズの品種比較テイスティング ~ニューワールド編~

 よく特徴が似ていると言われる、カベルネソーヴィニヨン(以下、CS)とシラーズの特徴の違いを知るための品種比較テイスティングをしてみたいと思います。 今回用意をしたワインは次の4種類です: ワイン①:Village Shiraz Yering Station 2017 (ヤラヴァレー[豪]/シラーズ) ワイン②: Favourite Son Cabernet Sauvignon Parker Coonawarra Estate 2018(クナワラ[豪]/CS) ワイン③:Barossa Valley Shiraz Powell & Son 2017 (バロッサヴァレー[豪]/シラーズ) ワイン④: Decoy Limited Cabernet Sauvignon Napa Valley Duckhorn Vinyards 2018(ナパヴァレー[米]/CS) CSとシラーズを1種類ずつでは、品種の比較としては心もとなかったために、それぞれニューワールドから2種類ずつのワインを用意しました。 外観 まずは外観の特徴の比較です。 CS、シラーズともに、濃い色のワインを造ることで有名な品種であるために、外観には品種による違いは現れませんでした。 ヤラヴァレーは色がやや薄めで、バロッサヴァレーとナパヴァレーは非常に濃い色合いという違いがありましたが、これは産地の特徴による違いだと思います。 香り 次に香りの比較です。 個人的に感じた香りの印象をイラストで表してみました。 香りについては、次のようにシラーズとCSに異なる傾向がありました。 シラーズ → 黒系果実 + スパイスの香り CS → 黒系果実 + 植物(野菜)の香り この傾向は、品種特徴の違いと言っても良いのかもしれません。 味わい 最後に味わいの比較です。 特に、タンニン、酸味、味わいの印象について違いを調べてみました。 結果としては、シラーズとCSの品種による顕著な違いは見つかりませんでした。 それぞれのワインでいくつか違いは現れましたが、これは産地の特徴による違いが大きいのではないかと思います。 まとめ カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーズの品種による違いが大きく表れたと感じられたのは、「香り」についてのみでした。 黒系果実 + スパイス中心 → シラーズ 黒系果実 + 青い香り → CS このような傾向

ブドウの収穫量と果実の品質の関係を考察

 ブドウの収穫量と、その果実の品質には関係があると言われています。その関係を考察してみました。 まず、収穫量が低くないと高品質のブドウはできないという考えがあります。部分的にはそうなのかもしれませんが、実際は必ずしもそうではないようです。 重要なのは、ブドウの樹の樹勢と、果実の収穫量の最適化を図ることにあるのだとか。 樹勢と果実の収穫量が最適化されたブドウの樹は、毎年、次のようなバランスの取れたサイクルが継続します。このサイクルでは、十分なに日照が得られることで、高品質の果実が収穫されます。 葉や果実に十分な日照量を得られると、ブドウは十分に成熟し、ブドウには次のようなポジティブな影響が現れると言われています。これがブドウの品質の高さにつながります。 ・光合成が十分に行われることで、ブドウの 糖分 が増加する ・タンニンが蓄積し タンニンレベルが上がり 、タンニンの重合により タンニンの苦みが減る ・黒ブドウでは アントシアニン(色素)が増加 する ・過剰な酸味をもたらす リンゴ酸 が、果実の温度の上昇により 減少 する ・好ましい香りをもたらす 香り物質(テルペンなど)が増加 する ・青い香りをもたらす 香り物質(メトキシピラジン)が減少 する 一方で、樹勢に対して収穫量の少なすぎるブドウ樹は、次のようなバランスの悪いサイクルが継続します。このサイクルでは、樹勢が強くなりすぎて、葉や果実の日当たりが悪くなり、品質の良い果実は収穫されません。 収穫量が低いことは、高品質のブドウの収穫には必ずしもつながらないようです。 ちなみに、樹勢に比べてブドウの収穫量が多すぎる場合にも、高品質のブドウ収穫にはつながらないようです。ブドウの樹は健康を失うとともに、果実にも十分な栄養は行きわたりません。 ブドウの品質とブドウ樹の樹勢の最適なバランスを保つには、適切なキャノピー・マネジメントが必要と言われています。 (関連記事: canopy management(=キャノピー・マネジメント)の意味|英語ワイン書籍に出てくる英単語 ) ここまでは樹勢と収穫量のバランスの話でしたが、そのバランスはいくつかの要素で決まると言われています。 それには、 ・ブドウ樹の 栽培環境 ・ ブドウ樹のタイプ (品種や、クローン、台木のタイプ、樹齢など) ・目的とする ワインスタイル などがあげられます

ピノタージュの特徴を調べる! ~ピノノワール、ジンファンデルとの品種比較テイスティング~

 ピノタージュは、主に南アフリカで栽培される黒ブドウ品種です。 1925年に、ピノノワールとサンソーの交配により、同国で開発されました。サンソーは南アフリカでは、エルミタージュとも呼べばれているそうです。 赤系果実の香りを持つ品種と言われているために、同様に赤系果実の香りを持つ、「ピノノワール」と「ジンファンデル」と比べて、その特徴を調べてみました。それぞれの産地は、南アフリカのような比較的暖かい地域である、カリフォルニアのものを選びました。 ちなみに今回は下の3種類のワインを選びました: ①ソノマPN:Migration Pinot Noir Sonoma Coast Duckhorn Vinyards 2016 ②ローダイ・ジンファンデル:Dry Creek Valley Zinfandel Dashe 2017 ③ウエスタンケープ・ピノタージュ:Mount Rozier Myrtle Manor Pinotage 2020 外観の特徴 色の濃さは、 「ピノノワール < ピノタージュ < ジンファンデル」 の順番でした。 ピノノワールよりはやや濃い程度の色でしたが、ジンファンデルよりは圧倒的に薄い色でした。いわゆるミディアムルビーに該当する色ですが、若いワインであることもあり、紫色のトーンが強く表れています。下の写真のように、グラスの底がしっかりと透けて見えます。 ピノタージュは、粒が小さく高い糖度に達するブドウで、濃い色で高アルコールを造ることができると言われるため、少し意外な結果でした。 南アのピノタージュは、フルボディのスタイルと、それよりもエレガントなスタイルの両方が造られているために、このワインはおそらくエレガントなスタイルなのだと思いました。 香りの特徴 ピノタージュの香りの特徴は、まずはしっかりとした樽香が感じられました。焦げた木のようなタークチョコレートのような、華やかさとは対極にあるような香りです。この香りに圧倒されて、果実の香りが鳴りを潜めている印象です。 そういえばWSETレベル3に次のような記述がありました。 「ピノタージュは、強くトーストしたオーク樽で発酵・貯蔵すると、コーヒーやチョコレートの強いアロマを帯びることがある。このようなワインは、しばしばそのユニークなスタイルを強調するために販売され、一部の消費者に非常に人気がある。」 もし

ワインからクローブ(丁子/丁字)の香りが感じられる理由とは?

樽熟成を経たある種のワインは 「クローブ(丁子/丁字)」 の香りを持つと言われます。 クローブは、インドネシア原産の常緑樹の花蕾(花とつぼみ)を乾燥させたもので、香辛料として使われています。 クローブは、 「オイゲノール(eugenol)」 という香り物質を持っており、これは刺激のある快い芳香を持っています。 一方で、ワイン樽に一般的に使われるオーク材にもオイゲノールが含まれています。そして、オイゲノールは樽熟成の際にオーク材からワインに入ると言われています。 つまり、このオイゲノールという化学物質が、樽熟成をしたワインにクローブの香りを与えているわけです。 オイゲノールは、ナツメグやシナモンにも含まれていると言われており、両者とも樽由来のワインの香りを表す用語として頻繁に使われます。 クローブの香りは、ボルドーの古典的なオーク樽熟成の赤ワインで見つかると言われています。ニューワールドのワインでも、ボルドースタイルのフレンチオークで熟成したワインにはクローブの香りが感じられると言われます。 (関連記事: 樽香とは?ワインの樽の香り(バニラ、クローブ、コーヒーなど)を整理してみました )

foudre(=フードル)の意味 | 英語ワイン書籍に出てくる英単語

「 Foudre(フードル)」 は、大きな木製の大桶(大樽)のことで、一般的なオーク樽よりもかなり大きく、多くの場合、1,000 リットル以上のワインを入れることができます。 フードル(Foudre) を含めたオーク樽は、ワインの発酵や熟成に用いられます。オーク樽でワインを発酵・熟成するメリットは、緩やかな酸素との接触によりワインをまろやかにできることや、ワインにオークの香りづけができることだと言われています。 例えば、多くの製造者がステンレスタンクを使って1次発酵をしているシャンパーニュにおいても、質感や口当たりの良さを増すために、 フードル(Foudre) を利用する製造が増えているようです。 このよう樽による発酵・熟成の効果の程度はオーク樽のサイズによって変わるのですが、小さい樽ではその影響が大きく、大きな樽ではその影響が小さいと言われます。なぜなら、小さい樽ではワインが樽の表面と接触する面積が大きい反面、大きな樽では接触面が小さいからです。 よく小樽の例として、ボルドーで用いられる225リットルの 「Barrique(バリック)」 があげられますが、この樽で発酵・熟成をしたワインには樽による大きな影響が現れると言われます。 (関連記事: 「樽」を表す英単語は?WSETのための「樽」を表す言葉の整理 ) しかし、近年は、強すぎる樽の香りのワインはあまり好まれない傾向があるため、従来は 「Barrique(バリック)」 のような小樽で発酵や熟成をしていた製造者の中にも、 「 Foudre(フードル)」 のような大樽での発酵・熟成に切り替えるところも増えているようです。

ワインから感じられる「醤油」の香り!?

ワインから醤油の香りを感じたことはないでしょうか? 私は時々、フルボディの赤ワインから醤油を連想させる香りを感じることがありました。 特にある種のシラーワインの香りをとると、どうしても醤油にしか感じられないことが何度かありました。 しかし、日本由来の調味料である「醤油」など、ワインの表現として役に立つことはないだろうと、ずっと自分の心にだけとどめておきました…。 それから暫くたって、先日あるウェブサイトで「醤油(Soy sauce)」がテイスティング用語として説明されているのを見つけて驚きました! それが時々参考にしている「Decanter」のこのページ( https://www.decanter.com/learn/advice/understand-tasting-notes-decoded-344920/ )。「Fermentation / Winemaking(発酵/ワイン醸造)」のカテゴリのテイスティング用語として、なんと!「Soy sauce」が説明されていました。 このページによれば、醤油は肉のような旨味を表す表現用語であり、一般的に辛口でフルボディの赤ワインで、酸味が強く、樽熟成が進んでいるものを表すようです。例えば、リオハのテンプラニーリョや、ピエモンテのバルベーラ、サンジョヴェーゼを用いたキアンティなどです。 醤油の旨味は発酵中にタンパク質が分解されることで生まれます。ワイン醸造においても、同様に、ブドウのタンパク質が酵母の働きで分解され、この旨味の風味が生まれると考えられているようです。 このページではシラーのワインは例としてあげられていませんでしたが、辛口、フルボディ、赤ワイン、酸味が強い、という条件を満たしていたために、醤油の風味が感じられたのかもしれません。

ブドウ樹の棚付けと、垣根仕立て(VSP)のメリット・デメリットの整理

 ワイン用のブドウ栽培では、多くのブドウ樹が棚付けされて管理されています。 棚付けとは、ブドウ棚を使用して毎年成長するブドウの枝葉を支持するブドウ樹の管理方法です。 ブドウ棚は下図のような、支柱と針金からなる常設の構造物を指します。 そして、ブドウの樹の棚付けの方法として最も広く使われている方法が 「垣根仕立て(VSP = Vertical Shoot Positioning)」 です。 垣根仕立てがあまりに一般的なので、個人的には、ついつい「棚付けのブドウ樹 = 垣根仕立て」と混同しがちです。 そこで整理のために、ブドウ樹の棚付けと、垣根仕立て(VSP)のメリット、デメリットをそれぞれまとめてみました。 棚付けしたブドウ畑(樹)のメリット・デメリット 棚付けの最大のメリットは、キャノピー・マネジメント(樹冠管理)が容易になることです。キャノピーとは、ブドウ樹で毎年成長する緑色の枝葉を指します(一般的に、長年にわたり固定されているコルドンは含まないと思います)。 そして、キャノピー・マネジメントのメリットとしては、「日照量」、「通気」、「機械化」の3つが挙げられます。 日照量のコントロールは、葉陰を減らすことによる日照量の最大化や、反対に葉陰を増やすことによる果実の日焼け対策が含まれます。 通気の管理は、特に雨や湿気の多い地域で重要であり、カビなどの菌類病のリスクを減らします。 また、適切なキャノピー・マネジメントにより、樹の特定の部分に果実や葉がくるようにしておくことは、畑への機械の導入を促します。これにより、作業の効率化を図ることができます。 一方で、棚付けのデメリットとしては、ブドウ棚設置のための初期費用と、それらを維持管理するための費用や手間があげられます。 ブドウ棚は、急斜面では利用できないこともデメリットの1つです。北ローヌなどの急斜面が多い畑では、ブドウ棚の代わりに支柱のみを用いた棒仕立てなどが用いられます。 (関連記事: 棒仕立て、ミストラル、混醸... ローヌ川流域北部のブドウ栽培とワイン造り ) 垣根仕立て(VSP)のメリット・デメリット 垣根仕立て(VSP)のメリットは、ブドウ樹の樹勢が一定以下の場合に、キャノピー・マネジメントがしやすいことと言われます。 したがってそのような場合には、「日照量のコントロール」、「通気の確保」、「作業の機械化」

混同しがちな「オーガニック(有機)ワイン」と「ナチュラル(自然派)ワイン」の違いについての考察

 ワインショップに行くと、POPに「オーガニック」や「ナチュラル(自然派)」と書かれたワインを目にします。 このようなPOPを見ると、どちらも「環境にやさしい」、「体にいい」というイメージを受けますが、あまり詳しい違いについては考えないかもしれません。 今回は、「オーガニック(有機)ワイン」と「ナチュラル(自然派)ワイン」の違いについて考察をしてみました。 まずは結論から言うと、それぞれには次のような違いがあるようです: オーガニック(有機)ワイン オーガニックワインとは、主に有機農法で造られたブドウから造られたワインのことを言います。 各地域ごとに異なる認証機関があり、オーガニックワインを名乗るためにはそれぞれの機関の認証を受ける必要があります。 醸造工程にも認証機関による規制があり、その大きな規制の1つは酸化防止剤であるSO2の使用制限です。使用できるSO2の量は国によって違いがあり、米国では一切のSO2の添加が認められていない一方で、EUでは一定量の使用が認められています。 有機栽培は、ブドウ畑の土壌とその中の微生物やミミズなどの生物の生態系を改善し、ブドウの木の健康や病気への抵抗力を高めることを目的としていると言われます。そして、人工的な合成肥料、殺菌剤、除草剤、殺虫剤の使用は禁止されています。 消費者の視点から見た場合、有機栽培のブドウが特に美味しいワインを造るわけではないようです。むしろ有機栽培のメリットは、ブドウの木の健康や耐病性、土壌の健康、環境の保全など生産者側にあるようです。 オーガニックワインから得られる消費者側の最大のメリットは、飲むワインにもよりますが、農薬の大量暴露の回避なのではないかと思います。 その反面、酸化防止剤であるSO2の使用が制限されているために、一般のワインに比べ保存が効かず、ある種の香りが失われてしまうとも言われています。 ナチュラル(自然派)ワイン ナチュラルワインは、通常、できる限り人の手を加えず、天然酵母で発酵させ、SO2の添加を最小限に抑える、もしくは全く添加しないワインを指すと言われます。ナチュラルワインは、「何も加えず、何も差し引かない」ことを目的に造られます。 しかし、オーガニックワインとは異なり認証機関が無いために、その定義は通常曖昧であることが多いようです。 ブドウの栽培方法についても特に明確な規定は無い

ワイン発酵に使われるタマゴ型コンクリートタンク(コンクリート・エッグ)の特徴を考察

近年人気があると言われるタマゴ型コンクリートタンク(コンクリート・エッグ)の特徴を調べてみました。 もともとはヨーロッパで開発されたタイプのタンクですが、今やカリフォルニアなどのニューワールドでも人気があるようです。 ワインのアルコール発酵にはさまざまな容器(発酵槽)が使われ、コンクリート素材の発酵槽は、従来は安価な選択肢として大規模タイプのものが建設されてきたようです。 コンクリートタンクを用いるメリットは低価格と、その高い熱慣性にあると言われてきました。しかしそれ以外の主だったメリットは特に見つけられてはいなかったようです。 しかし、タマゴ型のコンクリートタンク(コンクリート・エッグ)が登場し、その新たなメリットが注目を浴びています。 それは発酵中に自然に発生する対流です。この対流によりワインのアルコール発酵が活発に行われると言われています。また、この対流は、発酵中に発生する澱とワインを撹拌するような働きをして、ワインに澱の風味を加えたり、ワインの質感を増す効果もあると言われています。 また、コンクリートは多孔質であり、発酵中にはワインは少量の酸素と接触します。少量の酸素は、ワインにとってポジティブな効果をもたらす緩やかな酸化を促し、ワインの口当たりをまろやかにするようです。 さらにはコンクリートが従来持つ高い熱慣性により、ワインは大きな温度の上下動にさらされることなく、また、外部からの自動的な温度調整の必要性も減ると言われています。 一方でこのようなメリットとは引き換えに、このタマゴ型のコンクリートタンクは非常に高価なものであり、低価格というコンクリートのメリットは失われてしまうようです。 しかし、近年のブームを見ると、価格のデメリットを考慮しても大きなメリットが得られるということなのかもしれません。

意外なリパッソ・ワインの味わいとは? ~ヴァルポリチェッラ・ワイン4種類の比較テイスティング~

ヴァルポリチェッラは、イタリアのヴェネト州で造られるワインです。 畑は州の西部のベローナの近くの丘陵地帯に位置しています。 上の黒枠を拡大してみると、ほとんどの畑が丘に位置していることが分かります。しかし、徐々に畑は南部に広がり、一部平野部にも位置しています。 「ヴァルポリチェッラ・クラッシコ」は昔からある歴史的な畑であり、「ヴァルポリチェッラ」と区別をするために「クラッシコ(Classico)」という名称をラベルに付与することが認められている地域です。 ワインは主に、 「コルヴィーナ・ヴェロネーゼ(Corvina Veronese)」 というブドウ品種から造られます。 この品種は、 「pergola(ペルゴラ)」 と呼ばれる棚仕立てで栽培されることの多い品種ですが、日焼け対策、カビ病対策に加えて、収穫を安定させるため(梢の最初のいくつかの芽には身を付けない性質のため)と言われています。 ヴァルポリチェッラは、異なる製法で、様々なスタイルのワインが造られることが有名です。 製法の異なる代表的なDOC / DOCGをあげると、 「Valpolicella DOC 」 、 「Recioto della Valpolicella DOCG 」 、 「Amarone della Valpolicella DOCG 」 、 「Valpolicella Ripasso DOC 」 の4つがあります。 ・Valpolicella DOC(ヴァルポリチェッラDOC) → 通常の赤ワイン ・ Recioto della Valpolicella DOCG (レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCG) → 陰干しブドウから造った甘口ワイン ・ Amarone della Valpolicella DOCG(アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCG) → 陰干しブドウから造った辛口のフルボディワイン ・ Valpolicella Ripasso DOC(ヴァルポリチェッラ・リパッソDOCG) → レチョート or アマローネの発酵中の果皮を利用して造ったワイン テイスティング ① ヴァルポリチェッラ・クラッシコ (ワイン名:Bonacosta Valpolicella Classico Masi 2018) まずは通常のヴァルポリチェッラ・ワインから。今回は「ヴァルポリチェッ

房ごとのブドウを用いた醸造オプションの影響のまとめ

 房ごとのブドウを用いた醸造オプション(醸造の選択肢)のワインへの影響についてまとめてみました。 房ごとのブドウを用いるためには、ブドウの収穫を手収穫で行うため、多くのワイン産地では機械収穫に比べてコストが余計にかかります。そのため、基本的には一定価格以上の比較的品質の高いワインに使われます。 房ごとのブドウを用いる醸造オプションは、 白ワイン では主に 「圧搾工程」 、 赤ワイン では主に 「アルコール発酵の工程」 で違いを生み出します。 圧搾工程における影響 まず、ブドウ果汁を搾り出す「圧搾工程」では、緩やかな力で果汁の抽出ができると言われています。圧搾にかける力が緩やかな分、果皮などの固形部分から絞り出される固形物や、タンニン、色素などの成分の抽出が抑えられます。 シャンパーニュなどの繊細で高品質なスパークリングワインでは、房ごとのブドウによる圧搾が行われています。 また、房ごとのブドウは収穫時から圧搾までにブドウ果実を傷つけることが無いために、酸化のリスクも抑えられます。 さらに、房ごとのブドウは果梗が液体の通る隙間を作ることで、圧搾後に果汁の流出作業を容易に行うことができるとも言われています。 一方で、房ごとのブドウは果梗がある分、果実だけのブドウに比べて一度に圧搾タンクに入れられる量が少なくなり、圧搾効率は落ちてしまうというデメリットがあります。 アルコール発酵工程における影響 発酵工程において房ごとのブドウを用いる影響は、大きく分けて 「果梗の影響」 と 「細胞内の発酵」 による影響の2つに分けられます。 前者の 「果梗の影響」 としては、果梗の持つスパイスやハーブの香りがワインに加えられ、香りや風味の複雑性が増すと言われています。また、果梗由来のタンニンが抽出されることで、ワインの骨格が増すとも言われます。 その反面、果梗の成熟度が十分でない場合は、不快な青い香りや、苦い未熟なタンニンが抽出されるリスクも抱えています。 房ごとのブドウを用いるもう1つの影響は、 「細胞内の発酵」 による影響です。詳しい仕組みに関しては以前の記事で触れました。 (関連記事: 赤ワインで重要な「房ごと発酵する醸造方法」と「細胞内の発酵」 ) 細胞内の発酵は、酸素が十分に得られない嫌気的な環境で発生し、ブドウ果実中の糖分は、酵母の仲介なしにアルコールに変えられます。細胞内の

off-dry(オフドライ)ワインとは? | 英語ワイン書籍に出てくる英単語

off-dry(=オフドライ) は、ワインの甘味を表す単語として用いられます。 かろうじて感知ができるくらいの少量の糖分を含んでいる場合に、 「off-dry(オフドライ) 」 という表現が用いられます。 例えば、スパークリングワインで最も製造が多いと言われる 「Brut(ブリュット)」 の甘味のレベルのスパークリングワインは、基本的に 「off-dry」 と言われています。 スティルワイン(非発泡ワイン)では、低価格の赤ワインや白ワインは、 off-dry(オフドライ) のものが多いと言われています。 off-dry(オフドライ) よりも糖分が少ないワインは 「dry(辛口)」 ワインと呼ばれます。 中程度の価格帯のスティルワインの多くは 辛口ワイン と言われますが、香りの華やかさ騙されて第一印象で off-dry(オフドライ) と感じてしまうワインが多くあります。辛口と、オフドライを判別するには、少し経験が必要かもしれません。 off-dry(オフドライ)よりも糖分がしっかりと感じられるワインには、しばしば 「medium-dry(半辛口)」 や 「medium-sweet(半甘口)」 という言葉が用いられます。しかし、甘口ワインほど甘味の強さは感じられないワインです。 ドイツの完熟・過熟ブドウから造られたリースリングワインには、この 「medium-dry(半辛口)」 や 「medium-sweet(半甘口)」 のワインが見つかります。 甘口ワインの甘味は 「sweet(甘口)」 と表現されますが、これは甘味がそのワインの主な特徴であるワインに良く用いられる甘味です。デザートワインと言われるワインは、基本的にこの甘味の部類に含まれると思います。

Cult wine(カルトワイン)とは? ~カルトワインについて調べてみました~

カルトワイン とは、一般的に、熱心な愛好家グループが大金を払って手に入れる非常に高額なワインを指します。 「Cult」 とは、宗教的に用いられることも多い言葉ですが、 「社会の特定のグループの間で人気があること」 という意味も持つ単語です。 まさに、その名の通りのワインです。 カルトワイン は一般のワインとは異なり、単に消費のために購入されるわけではなく、しばしば収集や投資のために購入されます。 これらのワインはもともと非常に品質の高いワインですが、生産量が非常に少なく、口コミや有名批評家からの高評価による需要の高まりによって、本来の品質以上の価格で取引されます。 そして、その価値は年を追うごとに飛躍的に上昇するとも言われます。 「カルトワイン」 という言葉はもともとは、カリフォルニアの ナパ・ヴァレー の カベルネ・ソーヴィニヨン ブレンド が法外な値段で売れた現象を表現するために使われた言葉と言われています。 そして、この現象は、ワイン造りの伝統のあるワイナリーからではなく、小さな無名な土地から若い醸造家が造ったワインによって作り出したと言われています。 このような経緯で広まった 「カルトワイン」 という言葉ですが、今では、ブルゴーニュ、ボルドー、ローヌ、イタリアなどのワインでも、生産量が希少で高額で取引されるワインはカルトワインと呼ばれるそうです。 カルトワインと似たような言葉に、 「ガレージワイン」 という言葉があります。以前に下の記事でも触れました。 (関連記事: 格付けやAOCだけじゃない!学んでみると楽しいボルドーワイン ) ガレージワインは、1990年代半ばに、ボルドーの赤ワインの伝統的なスタイルに反発して、ガレージの様な小さな醸造設備で少量生産されたワインのことを言います。小規模な畑でとれたブドウをポムロールの農家の地下で醸造していたシャトー・ル・パンは、ガレージワインの前身と考えられています。 ボルドーの赤ワインの伝統的なスタイルは、タンニンが強く、飲めるようになるまでに長い瓶熟成を必要とするものでしたが、ガレージワインの醸造家たちは、伝統的なスタイルとは異なる果実味豊かなワインを造り批評家からの高い評価を受けました。 ガレージワインも、カルトワインと同様に、無名な土地から伝統の無いワイナリーで製造され、高い品質や希少性、さらには誇張や流行によっ

フランスを代表する3ブドウ品種の違いは? ~カベルネフラン、カベルネソーヴィニヨン、シラーの品種比較テイスティング

今回は、フランス中部の冷涼~温和な地域で栽培される、 「カベルネフラン」 、 「カベルネソーヴィニヨン」 、 「シラー」 の3品種の比較をして、それぞれの特徴を捉えてみたいと思います。 個人的には、比較的似た特徴をもった品種だと思うので、良いブラインドテイスティング対策になるのではないかと思います。 用意をしたワインは、 「ソミュール・シャンピニーAOC」 、 「ボルドー・ルージュ(ボルドーAOC)」 、 「クローズ・エルミタージュAOC」 の3つです。 具体的には次の3つのワインです: Saumur Champigny Langlois Chateau 2017 (ソミュール・シャンピニー) La Croix d'Austeran Bordeaux Rouge BIO 2020 (ボルドー・ルージュ) E.guigal Crozes Hermitage Rouge 2018 (クローズ・エルミタージュ) ちなみにそれぞれのワイン産地は、下図のように位置しています。 外観 まず、外観はどれもグラスの底が透けることが無く、濃い紫色をしています。 外観は非常に似通った印象です。 「カベルネフラン」 と、 「シラー」 は特に、紫色が強い印象です。 香り 香りはそれぞれ特徴の違いがありました。 「カベルネフラン」  → 草のような青い香りが感じられます。赤系果実と黒系果実が混ざったようなやや華やかな香りです。 「カベルネソーヴィニヨン(+メルロー)」  → 草のような青い香りがやや感じられますが、カベルネフランほどではありません。かすかに、ヴァニラを思わせる甘い香りが感じられます。赤系果実と黒系果実が混ざったやや華やかな香りです。(赤系果実の香りは、45%含まれているメルローの影響だと思います) 「シラー」  → 黒系果実の香りと、木やスパイスを思わせる旨味を感じさせる香り(これが黒コショウの香り)が感じられます。カベルネフランとカベルネソーヴィニヨンと比べると、草のニュアンスや華やかさはほとんど感じられません。 風味(味) 味にもそれぞれ大きな違いがありました。 「カベルネフラン」  → 酸味の高さが最も際立った特徴です。他の2品種に比べると、タンニンはスムーズであまり際立っていません。 「カベルネソーヴィニヨン(+メルロー)」  → タンニンと酸味の

さまざまな気候のバリエーションに富んだ「南オーストラリア州」の主要ワイン産地のまとめ

南オーストラリア州には、いくつかの有名なワイン産地があります。これらはオーストラリアのワイン法で、地区(Region)と呼ばれるレベルのものです。(ZONE > Region > Sub-region) 各地区はそれぞれ独特の気候を持ち、その気候にあったブドウ品種が栽培されています。 この記事では、それぞれの地区が持つ気候の特徴と、栽培されている品種をまとめて行きたいと思います。 まず、南オーストラリア州のサイズ感ですが、下の地図をみるとよくわかります。 広大な南オーストラリア州のうち、ワインの主要産地は南端のごく一部です。 しかし、主要なワイン産地のうち、北端のクレアヴァレーから、南端近くのクナワラまで約500kmあり、ここに東京ー大阪間がすっぽりと収まってしまいます。 いかに広大な土地に広がっているかがよくわかります。 では、ここから主要産地の場所と、気候特徴、主要品種を見ていきたいと思います。 一気に箇条書きにまとめてみました。 ① クレア・ヴァレー(Region; 地区) 温暖 な気候 冷涼な風と夜間の気温の低下による緩和効果がある 昼夜の気温差によって、果実の成熟が遅くなり、酸味が保持される 尾根/丘と谷が連続しており、 ⇒ 標高の高い地域で、 リースリング などが栽培さる ⇒ 標高の低い地域で、 シラーズ や カベルネソーヴィニヨン が栽培される ② リヴァーランド (Region; 地区) 暑い 大陸性気候(川や海からの若干の冷却効果あり) グレートディヴァイディング山脈の影響で雨が少ない ⇒ 大量収穫の健康的なブドウ栽培に理想的な環境 ⇒  低価格、大量生産ワイン が製造される(GIサウス・イースタン・オーストラリアなど) ③ クナワラ (Region; 地区) 温和 なボルドーに似た気候 海風と雲による気温の緩和効果あり テラロッサ土壌(水はけがよく、水と影響の摂取を制限する土壌) ⇒ 樹勢が制限され、果実の凝縮度が増す ⇒  カベルネソーヴィニヨン、シラーズ 、 シャルドネ、リースリング が栽培されている ④バロッサ・ヴァレー (Region; 地区) 温暖 な気候(夏は暑いが、夜は涼しい) ほとんどの畑は平野にある ⇒ フルボディの赤ワインに適した環境 ⇒ シラーズ、カベルネソーヴィニヨン が主に栽培される ⇒ フルボディの シャルドネ や セ

シラーズの産地、バロッサ・ヴァレー(豪)に関する疑問

 バロッサ・ヴァレー(Barossa Valley)と言えば、シラーズ種のワインで有名なオーストラリアのワイン産地です。 南オーストラリア州のアデレードの近くに位置する産地です。 私はこのバロッサ・ヴァレーのラベル表記に長らく疑問を持っていました。 それは、「Barossa Valley」と書かれているものと、「Barossa」と書かれているものがあることです。 色々調べてみた結果、どうやら「Barossa Valley」と「Barossa」という異なる2つのGIが存在するためのようです。 「GI Barossa Valley (Region;地区)」は、「GI Barossa (Zone;地域)」に含まれる産地なのだとか。地図では下のように、入れ子構造になっています。 ちなみに、「Barossa Valley (Region;地区)」の東には、リースリングで有名な「Eden Valley (Region;地区)」が位置しており、これも「Barossa (Zone;地域)」に含まれます。 オーストラリアのGI構造では、ZONE(地域) > Region(地区) > Sub-region(小地区) の広さの関係があるようです。

南半球のワイン産地がいかに暑い場所にあるのかがわかる図

 オーストラリアのワイン産地の緯度を確かめるために、ワイン用ブドウの栽培が可能と言われる「北緯/南緯30~50度」の線を世界地図に引いてみました。 オーストラリア本土のワイン産地のほとんどは、南緯30度から37度の間に位置していると言われています。最も涼しい場所に位置するタスマニアでさえ、南緯41度から42度に位置しています。 北緯に当てはめると、北緯30~40度の地域はスペイン南部、イタリア南部、ギリシャなどに該当するために、いかに暑い地域でブドウ栽培がおこなわれているかが分かります。 南半球の地図を見ると、南アフリカの全ての産地と、チリ・アルゼンチンの主要なワイン産地も全て南緯30~40度の比較的暑い地域に含まれていることが分かります(チリのサンチアゴは南緯33度、アルゼンチンのメンドーサは南緯32度)。 唯一、ニュージーランドの南島だけが、比較的涼しいゾーンの南緯40~50度に位置しています。北緯に当てはめると、北緯40~50度は、ヨーロッパの主要なワイン産地である、フランス、イタリア北部、スペイン北部が位置する、比較的涼しい地域です。 ちなみにアメリカで断トツの生産量を誇るカリフォルニアは、北緯30~40度に位置しており、ここも比較的暑い地域となります。 この地図を見ると、ヨーロッパ以外のニューワールドのほとんどの産地では、海風や標高の高い冷涼効果のある地域を中心にワイン産地が選ばれている理由がよくわかります。