ワインを評価する場合、多くの場合「外観」、「香り」、「味覚」の3つの要素が用いられます。
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どれも重要な要素ですが、今回はワインのおいしさや飲みやすさに直結をする「味覚」に焦点を当てて、味覚に関するさまざまな要素をどのように感じ取ることができるのかを考察してみたいと思います。
まず、ワインの味覚を構成する要素としては次のようなものがあります:
・甘味
・酸味
・タンニン(主に赤ワイン)
・アルコール
・ボディ
・風味のタイプや強さ
甘味
甘味はワインに含まれている糖分によって感じ取られる要素です。糖分が含まれていない/非常に少ないワインは「辛口」で、糖分を豊富に含んで甘味が顕著な特徴となっているワインが「甘口」です。
この定義は当たり前のように感じられますが、実は非常に重要です。
なぜなら「甘味」を評価する場合、「糖分由来の甘い味わい」と「甘い香り」をしっかりと区別しなければならないからです。
例えば、綿あめのような甘い香りを持つマスカット・ベーリーAの辛口ワインの試飲をしてみるとその香りの影響によって一瞬、甘味のあるワインのように感じられてしまうことがよくあります。しかし、よくよく味わってみると、口の中では糖分由来の甘味を感じることはできません。
この「味覚」と「香り」の区別は、テイスティングの練習を重ねることが徐々に精度を上げることができますが、もしかしたら最初のうちは混同してしまうかもしれません。
多くの人にとって、甘味は舌先で最も強く感知されると言われているので、テイスティングの際にはこの部分に注意をしてみるのが良いかもしれません。
補足となりますが、ワインが感知のできる少量の糖分を含んでいる場合、ワインは「オフドライ」と言われます。「BRUT」と書かれているスパークリングワインの多くは泡の影響もあってあまり糖分を感じることができないかもしれませんが、実は「オフドライ」であることがほとんどです。
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酸味
ワインに含まれる主な酸は、酒石酸、リンゴ酸、乳酸です。そのため、酸味はこれらを多く含む食品であるブドウやレモン、その他の果物、ヨーグルトなどを口に含んだ時に感じられる「酸っぱさ」として感じられます。
しかし、この「酸っぱい」という感覚は時にはワインの他の要素によって覆い隠されてしまうことがあるので注意が必要です。
例えば、甘口ワインにおいては辛口のワインに比べて、酸っぱいという感覚は十分に感じられないと言われます。それは、甘口ワインにおいては、高い酸味は酸っぱいという特徴というよりは、甘味にバランスの取れた心地よさを与えるさわやかさとしてとらえられてしまうためです。
実際に、多くの甘口ワインは多くの甘味とバランスをとるために高い酸味を持たせたものが多いのですが、注意をしないと甘味のみしかとらえることができずに、その高い酸味を評価することができません。
このような場合、酸味が口内に与えるもう1つの影響で、酸味の高さを評価することが重要です。それは、酸味が口内の唾液の分泌を促すという特徴です。唾液には口内のpH値を一定に保つ効果があり、これを「緩衝作用」と呼ばれています。
酸味は下の両側で最も強く感知されると言われています。ワインの酸味を評価する場合、下の両側で感知される「酸っぱさ」に加えて、「どの程度、唾液の分泌が促されるのか?」にも注意をして評価をすることが重要であると考えられます。
補足となりますが、酸味がもたらす刺すような感覚は、アルコールがもたらす焼ける感覚と混同されることがあるそうです。私自身はこの感覚の類似性を感じたことはありませんので、これに関してはあまり説明をすることができません。
タンニン
タンニンはブドウの果皮や種、製造方法によってはブドウの茎や、オーク樽などに由来する物質です。
口内で感じる質感として、しばしば「タンニン=渋み」と説明されていることがありますが、これは必ずしも正とは言えません。一般的に渋みをもたらすタンニンは、「未成熟な」タンニンと表現されます。反対に、「成熟した」タンニンは必ずしも渋みをもたらすとは限りません。
例えば、タンニンを十分に成熟させたブドウから造られたワインや、長い樽熟成を経てタンニンが丸みを帯びたワインでは、それほどはっきりとした「渋味」を感じることはないかもしれません。
タンニンを評価する場合、よく次のような点が注目されます:
・渋味/口の渇き/ざらつき
・舌触りの豊かさ/コクや味の芳醇さ
・苦味
タンニンは口に入ると、唾液中に含まれるムチンと呼ばれるたんぱく質と結合して変性させると言われています。ムチンは口内のぬるぬるした層を作り出す物質であるために、タンニンが口内に広がることで、ざらざらした感覚や、口の渇きを引き起こし、これらは渋味として感知されます。このようなタンニンによる変性作用は「収れん作用」と呼ばれます。渋味は味覚として舌でとらえられるものではなく、収れん作用の結果、触覚としてとらえられるものであるようです。
この渋味の由来となる収れん作用を起こすためには、タンニンの水溶性が高く唾液に溶けることが必要であると言われています。そのため、タンニンが成熟して重合化したタンニンでは収れん作用による渋味はあまり感じられないようです。タンニンから感じられる苦味も同様で、成熟したタンニンからは感じられにくいと言われています。
これがタンニンの成熟度(未熟/成熟)によるタンニンの感じられ方の違いにつながっているのではないかと思います。
タンニンを評価するときは、ざらつきや口の渇き、そして苦味に注意をしてみることが重要です。口の渇きを最もはっきりと感じられるのは前歯の上の歯茎と言われており、苦味を一番敏感に感じるのは口の奥であると言われています。個人的には、舌先で感じるざらつきがタンニンの大きな評価要素になるのではないかと思っています。
ちなみにタンニンは赤ワインでは重要な構成成分ですが、製造工程で果皮や種子との長い接触を行わない白ワインではほとんど感じることはできません。
アルコール
アルコールは味覚ではなく、触覚としてとらえられる要素です。これは主に次のような感覚としてとらえられます:
・ワインを吐き出したり飲み込んだ後に熱くて焼けるような感覚
・ワインの粘性
最初の「熱くて焼けるような感覚」は、ワインよりもさらにアルコール度の高い焼酎やウイスキーを飲んだ時に感じられるものと同じですので、イメージがしやすいと思います。
この熱くて焼けるような感覚は、体全体や胃、喉などで感じ取ることができますが、テイスティングにおいては喉で感じ取られるものが最も精度が高いのではないかと思います。アルコールが喉に入ると、喉の粘膜を刺激して、チリチリと焼けるような感覚を与えます。テイスティングにおいては、ワインを飲み込んでしまうのではなく、喉に触れさせてから吐き出してしまうのがおすすめです。
ワインのアルコール度数はおよそ、白ワインで5%~14%くらい、赤ワインで12%~16%くらいと言われています。アルコール度の低い5%程度のものは、ビール程度のアルコール度なので、喉が焼けるような感覚を感じることはほとんどないはずです。一方で、16%程のものになると、清酒と同等程度のアルコール度なので、しっかりと喉が焼けるような感覚を感じられるはずです。
ワインの粘性については、基本的にはアルコール度の高いワインの方が粘性が高くなります。これは水にアルコールが混じると粘性があがる特徴によるものです。アルコール度の低いワインは粘性が低く、水のように感じられます。
しかしワインの粘性はアルコールだけではなく、糖分によっても上がるために、これらを混同してしまわないように注意をする必要があります。
ボディ
ボディは、ワインが与える舌触り、テクスチャー、質感、口当たりなどと呼ばれるものです。
これは味覚というよりも、触覚として感じられるものと思われます。
ボディに影響を与える要素には次のようなものがあげられます:
・アルコール
・タンニンの量と質
・糖分(甘味)
・酸味
・香りの強さ
このうちボディに最も大きな影響を与えるものはアルコールです。アルコール度の高いワインの方が基本的にはボディは重くなります。
通常、アルコール、タンニン、糖分はボディを重くして、酸味はボディを軽くすると言われています。また、成熟したタンニンはボディを重くして、未熟な粗いタンニンはボディを軽くすると言われます。
例えば、成熟したタンニンと強い風味を持つアルコール度の高いワインのボディ(カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンなど)はフルボディとなる一方で、高い酸味と繊細な風味を持つアルコール度の低いワイン(シャブリなど)のボディはライトボディとなります。
先ほどあげたように、ボディはさまざまな構成要素を組み合わせた全体的な印象として感じ取れるものなので、テイスティングにおいては大きく外れることが少ない項目だと思います。
風味のタイプや強さ
ワインの風味には次の3種類が存在します:
・第一の風味(ブドウ由来の香りで、果実や花、草などの香りとして表現されます)
・第二の風味(製造工程由来の香りで、オークの香りや酵母由来の香りなどが含まれます)
・第三の風味(熟成過程由来の香りで、熟成期間中の酸化による香りや、瓶内熟成によって発展した香りなどが含まれます)
これらの風味は、味覚というよりは味覚に由来するもののようです。そのためにワインの風味は、基本的にはワインの香りと一致すると言われています。
香り(土の香り、スパイス、トースト)の中には、香りとしてよりも風味としてよりはっきり感じられるものもあるようです。しかし、個人的にはあまりそのようなことを感じたことが無いのでよくわかりません。
<了>