ボルドーワインについて語られるときに、「右岸(のワイン)」と「左岸(のワイン)」という言葉が用いられます。
「右岸」とは、ジロンド川とその支流のドルドーニュ川の東岸のエリア、そして、「左岸」とは、ジロンド川とその支流のガロンヌ川の西岸のエリアを指します。
ワインの世界ではボルドー以外でも「右岸」、「左岸」という言葉が用いられますが、基本的には川の上流を視点に川の右側、左側が決められています。
ちなみに、どちらにも当てはまらないドルドーニュ川とガロンヌ川にはさまれた地域は、「アントル・ドゥー・メール地区」(2つの海の間という意味)と呼ばれています。
「右岸」と「左岸」で異なるワインのスタイル
一般にボルドーの「右岸」と「左岸」では、そのワインのスタイルが異なると言われています。ボルドーのワイン生産量のほとんどは赤ワインであるために、右岸のワイン、左岸のワインという言葉が使われるときの多くは赤ワインのことを指しています。
スタイルの違いの主な理由は、それぞれのワインで使われるブドウ品種の違いにあると言われています。
右岸のワインで最も多く利用されるブドウ品種は「メルロ」であり、それに「カベルネ・フラン」などの品種がブレンドされます。
左岸のワインで比較的多く利用されるブドウ品種は「カベルネ・ソーヴィニヨン」であり、多くの場合それに「メルロ」がブレンドされています。
同じボルドーという名の地域にありながら、右岸、左岸で栽培されているブドウ品種が異なる理由は、主に土壌の違いと言われています。
「右岸」の土壌は主に粘土質土壌です。粘土質土壌は水分を多く含むため、日中の温度が上がりにくいことが特徴です。そのため、果実の成熟に一定の暖かさが必要なカベルネ・ソーヴィニヨンは右岸の粘土質土壌での栽培が難しく、比較的、涼しい環境でも栽培のしやすいメルロやカベルネ・フランが多く栽培されています。
一方で、「左岸」の土壌は砂利や小石を多く含む土壌であり、排水性が良く、日中の気温が上がりやすいことが特徴です。そのため「左岸」の地域では、栽培に一定の暖かさが必要なカベルネ・ソーヴィニヨンが比較的多く栽培されていると言われています。
「右岸」と「左岸」ではこのようなワインに使われるブドウ品種の違いがあるわけですが、この違いが最も顕著に表れているのは、それぞれの地域を代表する原産地呼称(AOC)を持つワインです。例えばそれは、右岸ではサンテミリオンAOCやポムロールAOC、左岸ではオーメドックAOCや、ポイヤックAOCなどです。
広域AOCであるボルドーAOCやボルドーシュペリュールAOCなどのワインは、右岸、左岸のどちらでも製造可能ですが、どちらで製造されていたとしても使われる品種にはそれほど顕著な違いはないようです。これら広域AOCのワインでは、栽培のしやすいメルロが主要品種となっています。
「右岸」のワインスタイルは?
右岸のワインとして代表的なワインは、サンテミリオンAOCやポムロールAOCなど、比較的高額な部類に属するワインです。
これらのワインの特徴は、赤プラムや黒プラムの凝縮された強い香りを持ち、はっきりとした新樽に由来するヴァニラや丁子の香りを持つことです。
味わいの特徴は、フルボディでアルコール度が高いことです。基本的に辛口で、骨格を構成する酸味とタンニンは、中程度~高いレベルにあります。
後述の左岸のワインと比べると、右岸のワインはボディが豊かである一方で、骨格はやや柔らかめであると言えると思います。そのようなスタイルから、「女性的」とも形容されることがあるようです。
このようなスタイルになる理由には、やはりメルロの割合の多さと、収穫量の制限があると思います。
メルロは、カベルネソーヴィニヨンに比べると、果実中の糖度(つまり潜在アルコール度)が高まりやすい傾向があり、これがワインに豊かなボディを与えています。また、メルロの酸味やタンニンは、カベルネソーヴィニヨンほど高くないために、ワインの骨格はそれほど強調されません。
また、かなり厳しい収穫量の制限がされている地域であるために、果実の凝縮度が高まり、新樽の香りにも負けないようなしっかりとした香りの強さ持っています。メドックAOCの最大収穫量が57 hL/haである一方で、ポムロールAOCとサンテミリオンAOCではそれぞれ、53 hL/ha、49 hL/haであることを見ると、収穫量が厳しく制限されていることがわかります。
メルロは本来、赤系果実の香りを持つブドウ品種ですが、果実の成熟度が高まると黒系果実の香りも帯びると言われており、これがワインにも表れています。
左岸のワインが帯びている、清涼感や緑を思わせる香りがそれほど強く感じられないことも、特徴の違いかもしれません。
「左」のワインスタイルは?
<続く>