カナダと言えば、アイスワインが有名です。
アイスワインの主な産地はオンタリオ州で、ここで生産されるアイスワインの割合は、カナダ全体の9割を占めると言われています。
オンタリオ州の主なワイン地域は州南部の五大湖の周辺に集まっており、北緯はだいたい41~44°くらいです。この緯度をヨーロッパに当てはめると中央イタリアからボルドーくらいです。また日本で言うと札幌市が43°くらいです。
緯度としてはそこまで寒いイメージは無いのですが、なぜアイスワインの製造ができるのでしょうか?
そこで、なぜカナダでアイスワインが製造できるのかを考察してみようと思います。
なぜアイスワインが造れるほど寒いのか?
まずは、オンタリオ州のワイン産地の位置から調べてみます。
カナダのワイン産地はオンタリオとブリティッシュ・コロンビアの東西に大きく分かれています。
ブリティッシュ・コロンビアの方が北に位置していますが、実は冬の寒さが厳しいのはオンタリオの方です。これは意外な感じがしますが、どうやらカナダ西岸と東岸を流れる海流の違いが東西の気候の違いを生み出しているようです。
オンタリオのある東岸にはラブラドル海流と呼ばれる寒流が流れていますが、ブリティッシュ・コロンビアのある西岸にはアラスカ海流と呼ばれる暖流が流れています。
オンタリオに寒さをもたらしている影響の1つとしては、まず、この寒流の影響が考えられます。
しかし、オンタリオの冬を厳しくしている原因はこれだけではないと思います。それは、オンタリオのワイン産地がかなりの大陸性気候であるということです。
先程の地図では分かりにくいですが、実はオンタリオのワイン産地は沿岸から500 km以上離れています。
大陸性気候の特徴は、暑く短い夏と、寒い冬です。実際に、ワイン産地にごく近いトロントの1月の平均最高気温は-1℃と、とても寒い気候です。
寒流と、大陸性気候の影響によって、オンタリオの冬はアイスワインを造ることができるくらい気温が下がるのだと考えられます。
なぜ寒い地域にも関わらずブドウ栽培ができるのか?
オンタリオのワイン産地は冬場は非常に気温が低いことが分かりました。
では反対に、なぜこのような寒さが厳しい地域にも関わらず、ブドウ栽培ができるのかについて考えてみたいと思います。
それには次の4つの理由があるのではないかと考察します。
① 夏の暑さ(暖かさ)
② 湖の緩和効果
③ 夏場の日照時間の長さ
④ 寒さに強いブドウ品種
まず1つ目は、夏の暑さ(暖かさ)です。
大陸性気候は冬場は寒さが厳しい反面、夏場には気温が上がります。例えば、トロントでは6月~8月の一日の平均気温は20℃近くまで上がります。
このように夏場のブドウの生育期間に一定の暖かさを確保できることが、ブドウ栽培を可能にしているのだと思います。
次に、湖の緩和効果です。
オンタリオのワイン産地は全てオンタリオ湖とエリー湖の2つの湖のごく近くに位置しています。これは、湖から離れると、冬の寒さが厳しすぎて、ブドウの木が冬を越せなくなるからと言われています。
湖は陸地よりも熱伝導率が低いために、極端な気候を和らげる効果があります。そのため、湖の近くでは、夜間の寒さが緩和されます。また、夏場の暖かさを保持することで、冬の厳しい寒さも緩和されます。
また、この気温の変化を緩和する効果から、秋の急激な気温の落ち込みを緩和して、ブドウの成熟期間を延ばす効果もあります。
さらに湖の近くは冬場には一定の降雪が期待できます。湖の近くのブドウの木は雪に覆われることによって、その断熱効果によって冬の寒さをしのぐことができると言われています。
直感的には雪に覆われた方が寒そうですが、実際は冷たい空気にさらされるよりは良いようです。
3つ目は、夏場の日照時間の長さです。
北半球では、緯度が高い地域ほど、夏の日照時間が長くなります。そして、ブドウはより長時間日光を浴びることで、成熟がしやすくなります。この現象は夏に地軸が太陽に側に傾くことによって起こります。
オンタリオはブリティッシュ・コロンビアほど緯度が高いわけではありませんが、ある程度はこの日照時間の恩恵を受けていると考えられます。
上の図のように、夏場は太陽に向かって地軸が傾くために、北半球では緯度が高い(より北にある)地域の方が昼の長さが長くなります。顕著な例は、北極圏で夏至付近にみられる白夜などです。
最後は、アイスワインに使う寒さに強いブドウ品種についてです。
カナダの多くのアイスワインはヴィダル(Vidal)という名前の品種のブドウから造られています。
ヴィダルは耐寒性の非常に高い交配品種です。そのために、カナダの厳しい冬の中でも生き抜くことができます。
余談になりますが、ヴィダルはもともとコニャック生産用にフランスでつくられた品種です。コニャック用に使われるユニ・ブラン種(Uni Blanc)と耐寒性の高いセイベル4986という名前のブドウを交配させて造られました。フランス西部の海洋性気候と寒い冬の中でも栽培ができるようにと生み出された品種のようですが、現在フランスではあまり栽培されていないようです。
ユニ・ブランと言えば、イタリアではトレッビアーノ・トスカーノ(Trebbiano Toscano)と呼ばれて、甘口ワインのヴィン・サントに使われる品種です。晩熟品種で糖分を蓄積しやすい性質と、高い酸味から甘口ワインの生産に向いていると言われています。
そしてこのような特徴は、ユニ・ブランから生み出されたヴィダルにも共通する特徴です。余談が長くなりましたが、やはり甘口ワインに求められる品種特徴は共通しているということなのだと思います。
また加えて、ヴィダルの果皮は厚く、凍ったり溶けたりを繰り返すブドウの果肉の膨張や収縮に耐えられるのだとか。
ちなみに、アイスワインはヴィダルと同様に耐寒性の高いリースリングからも造られています。リースリングから造られるアイスワインは、ヴィダルから造られたものと比べて、より複雑な香りと酸味の強さを持ち、より高品質であると言われています。
ヴィダルやリースリング以外にも、カベルネ・フラン、ゲヴェルツトラミネール、シャルドネからもアイスワインは造られているようです。ゲヴェルツトラミネールのものはなんとなく想像がつきますが、カベルネ・フランやシャルドネはあまり想像がつきません。
まとめ
非常に寒い冬と、一定の暖かさが得られる絶妙な自然環境によって、カナダ、特にオンタリオではアイスワインの製造ができることが分かりました。
カナダ=寒くて当然という固定観念を持っていましたが、緯度を調べてみるとフランス~イタリアとそれほど変わらず、決して緯度だけで厳しい冬の環境がつくられているわけではないようです。
アイスワインの製造方法については、こちらで紹介しているドイツのアイスヴァインの製法と大きくは変わらないようです。
➡(関連記事:アイスヴァイン(Eiswein)の製造方法とクリオ・エクストラクション)
<了>