シャンパーニュの特徴の1つに、パンやビスケット、トーストといった風味があげられると思います。
この特徴は、シャンパーニュを含む、高額なスパークリングワインに用いられる「瓶内二次発酵」と「澱との熟成」に起因していると言われています。
シャンパーニュを含む、高額なスパークリングワインの作り方(「伝統的方式」と呼ばれています)は大雑把に次のような流れです:
① ベースワインを造る(アルコールの一次発酵を含む)
② ベースワインに糖分と酵母を加えて瓶詰め
③ 瓶内でアルコールの二次発酵が起こり、CO2が発生
④ 酵母は死滅して澱となる
⑤ 瓶内で澱とともにワインの熟成(酵母の自己分解発生)
⑥ 瓶内から澱を取り除き、甘味調整(リキュール・デクスペディション添加)
パンやビスケット、トーストといった風味は⑤の工程が主に寄与しているわけですが、「酵母の自己分解(yeast autolysis)」によってこの香りが生成されるのだとか。
酵母と言えば、パンの発酵に使われる材料です。ですので、酵母と熟成させたワインが「パン」や「ビスケット」の香りをもつことは当然と言えば当然と言えるかもしれません。
しかし、私には長らくシャンパーニュに関する疑問がありました。
それは、シャンパーニュの持つ「トースト」の香ばしい香りです。
酵母の影響によってパン生地の香りを持つことはわかるのですが、火を入れていないシャンパーニュが「香ばしい香り」を持つことにずっと納得ができていませんでした。
最近、その謎を解明してくれるヒントに行き当たったのですが、それは「メイラード反応(Maillard reaction)」です。
メイラード反応とは、トーストを焼いたときなどにアミノ酸と糖質が結合して「メラノイジン」という褐色物質を作る反応です。この時、焦げ臭、カラメル臭、ナッツ様の臭気、パン様の臭気、チョコレート臭、時にカビ臭やスミレ様の臭気など、様々な香気が生じるそうです。
どうやら、シャンパーニュにおいても、酵母の自己分解に由来する物質(おそらくアミノ酸)とリキュール・デクスペディション(liqueur d'expedition)に含まれる糖分が反応でして、「メイラード反応」が起きているようなのです。
まだ、知識が断片的なのですが、どうやらこれが幾分かシャンパーニュの「香ばしさ」に寄与していると考えてよさそうな気がします。
テイスティングを続ける中で、「香ばしい香り=木樽熟成」という図式が自然と頭の中に出来上がってしまっていましたが、どうやらワインの種類によってはこの図式は成り立たないようです。