今回は比較的暖かい地域、特にニューワールドの白ワインの品種についてテイスティングによる品種特徴の確認をしていきたいと思います。
用意した品種は、主要品種である「シャルドネ」、「リースリング」、「ソーヴィニヨン・ブラン」、「シュナン・ブラン」に加えて、「セミヨン」と「トロンテス」も加えてみました。
できるだけ近い地域の方が品種特徴の違いが出るので、ワイン①~③はオーストラリアのもの、ワイン④⑤は南アフリカのものを選びました。
ワイン①:『Lucky Lizard Chardonnay D'arenberg 2018』(シャルドネ:豪、アデレードヒルズ)
ワイン②:『Tyrrell’s Single Vineyard Stevens Semillon 2014』(セミヨン:豪、ハンターヴァレー)
ワイン③:『Riesling Annie‘s Lane 2019』(リースリング:豪、クレアヴァレー)
ワイン④:『De Trafford Chenin Blanc De Trafford Wines 2018』(シュナン・ブラン:南ア、ステレンボッシュ)
ワイン⑤:『Newton Johnson Sauvignon Blanc 2020』(ソーヴィニヨン・ブラン:南ア、ウォーカーベイ)
ワイン⑥:『Cuma Organic Torrontes Bodega El Esteco 2020』(トロンテス:チリ、カファヤテ)
基本的には下表のような味わいになるはずですが、実際のテイスティングでも違いを確認してみたいと思います。
テイスティング
ワイン①:『Lucky Lizard Chardonnay D'arenberg (2018)』(シャルドネ:豪、アデレードヒルズ)
詳しい特徴は以前の記事に書かれていますが、まず特徴的なのはしっかりと乳製品の香りを感じられるところです。ヨーグルトを連想させるような香りです。
(関連記事:シャルドネの味わいは産地によってどう変わるのか? ~産地ごとの特徴の違いのまとめ~)
次に、甘いヴァニラを思わせるような樽の香りもしっかりと感じられます。
果実の香りは、柑橘系果実(レモン、グレープフルーツ)や、有核果実(モモ、アプリコット)が中心です。
ニュートラルな品種由来の香りを、ヨーグルトや樽香で補完していることから、シャルドネであることが分かりやすいワインだと思います。
果実の香りは比較的エレガントですが、アルコール度が13.5%あり、ボディもミディアム(+)くらいあるので、ニューワールドのシャルドネの特徴もよくでていると思います。
以前の記事でも書きましたが、しっかりとしたヴァニラのような樽香はオーストラリアのシャルドネの特徴なのかもしれません。
ワイン②:『Tyrrell’s Single Vineyard Stevens Semillon 2014』(セミヨン:豪、ハンターヴァレー)
色はかなり淡く、緑懸かったレモン色です。
香りは、緑色系果実(ナシ、リンゴ)から柑橘系果実(モモ、アプリコット)の香りがします。
味わいは、辛口で、酸味は高く、ライトボディ(もしくは弱めのミディアムボディ)です。アルコールは中程度ですが、やや低めの12.0%です。
この辺りは、ハンター・ヴァレーのセミヨンの特徴がとても良く出ています。
5年以上前のヴィンテージなので、ハンター・ヴァレーのセミヨンの特徴である、トースト、ハチミツ、干し草、ナッツなどの香りがでていることを期待しましたが、これらをしっかりと感じることはできませんでした。やはり10年ものくらいでないと、トースト感はでないのかもしれません。
その代わり、擦ったマッチの香りが感じられました。この香りは還元性硫黄化合物に由来すると言われます。ハンター・ヴァレーのセミヨンは、酸化環境を避けた製造方法で造られるので、このような還元的な影響がワインに現れるのかもしれません。
ブラインドテイスティングでの品種特定のヒントは、ニュートラルな香りと、ライトボディの組み合わせだと思います。シャブリやミュスカデに近い特徴を持つワインだと思いますが、冷涼地域よりもやや強めの香りを持つ部分が特徴の違いだと思いました(シャブリの火打石の香りが少し強くなった香りの印象を持ちました)。
あとは、還元的な香りもハンター・ヴァレーのセミヨンの特徴ではないかと思いました。
ワイン③:『Riesling Annie‘s Lane 2019』 (リースリング:豪、クレアヴァレー)
冷涼地域のリースリングと同様、温暖地域においてもリースリングの特徴は華やかな甘い香りです。
詳しい特徴は前回の記事で書いています。
(関連記事:リースリングの味わいは産地やタイプでどう違うのか? ~特徴のまとめと、テイスティングによる確認~)
リースリングの特徴はスイカズラ(ハニーサックル)を思わせる甘い香りですが、熟成が進むとハチミツのような香りも帯びてきます。このワインは本来はスイカズラの香りと緑色系果実(リンゴ、ナシ)~柑橘系果実(レモン、グレープフルーツ)の香りが占めていましたが、保存状態があまりよくなかったためにテイスティングの時点では、ドライフルーツやハチミツの香りが中心のワインとなってしまいました。
味わいは、辛口で、高い酸味、ミディアムボディ、中程度のアルコール度(12.0%)です。
ニューワールドにおいてもリースリングの特徴は、華やかな花や花の蜜を思わせる香りと、高い酸味だと思います。
オーストラリアのリースリングは灯油のようなペトロール香が出ることが多いですが、酸化が進んでしまったためか、このワインからその香りは消えてしまっていました。
ワイン④:『De Trafford Chenin Blanc De Trafford Wines 2018』(シュナン・ブラン:南ア、ステレンボッシュ)
ハチミツやヴァニラを思わせる甘い香りが特徴のワインです。
詳しい特徴は以前の記事に書いてあります。
(関連記事:シュナン・ブランの味わいは産地によってどうかわるのか? ~特徴のまとめと、テイスティングによる確認~)
甘い香りの特徴は、リースリングのようなフレッシュな花や花の蜜の香り高い香りと言うよりは、それを少し寝かせたり、凝縮させたような、缶詰のシロップやハチミツの甘さを連想させます。繰り返しになりますが、甘い香りはするのですが、リースリングのような香り高い香りとはまた違います。
そしてその香りの中にヴァニラの甘い香りも感じられます。また、やや木材を連想させるようなシナモンの香りも感じられます。この辺りは、新樽を使った熟成の影響だと思います。
果実の香りはリンゴや熱帯系果実(パイナップル、ライチ)の香りが感じられます。
このように、ニューワールド、特に南アフリカのプレミアムなシュナン・ブランの特徴は、品種由来の甘い香りと熱帯系果実の香り、新樽由来のヴァニラやシナモンの組み合わせだと思います。
味わいは、辛口、中程度の酸味、中程度のアルコール度(13.5%)、ミディアム(+)程度のボディです。
中程度の中では高めのアルコール度、ミディアムよりもしっかりしたボディも、南アフリカのシュナン・ブランを見分ける特徴の1つだと思います。
ワイン⑤:『Newton Johnson Sauvignon Blanc (2020)』(ソーヴィニヨン・ブラン:南ア、ウォーカーベイ)
ソーヴィニヨン・ブランの「青さ」が感じられるワインです。
以前の産地の比較では、ソーヴィニヨン・ブラン独特のグーズベリーやパッションフルーツを思わせる香りが感じ取れないと書きましたが、多品種とのフライトではその独特の「青い」香りがしっかりと感じられます。
(関連記事:ソーヴィニヨン・ブランの味わいは産地によってどうかわるのか? ~産地ごとの特徴の違いのまとめ~)
テイスティングでは比較をすることが非常に重要であることを再認識しました。
新樽による熟成も行われており、焦がした木の香りも感じられます。ワイン全体としては、野焼きをした後のような、植物が焦げた香りが感じられます。
果実の香りは、柑橘系果実(レモン、グレープフルーツ)~有核果実(モモ)くらいに感じられます。
味わいは、辛口、やや高めの酸味、中程度のアルコール度、ミディアムボディくらいです。
南アフリカの樽香を利かせたワインでも、ソーヴィニヨン・ブランを見分ける手掛かりはやはり青い香りと、高いレベルの酸味にあると思いました。
ワイン⑥:『Cuma Organic Torrontes Bodega El Esteco 2020』(トロンテス:チリ、カファヤテ)
外観は、やや淡いレモン色です。
外観からはエレガントなワインが予想されますが、香りは非常に強く華やかです。
いわゆる「果樹の花」や「ブドウ(マスカット)」で表現される香りです。あとはかすかに、ハーブを感じさせる植物の香りもします。全体的に、フレッシュさと華やかさが共存した香りです。
味わいは、ドライで、酸味はやや高く、アルコールは中程度(13.5%)、ミディアムボディくらいです。
今度は反対に、香りの強さの割には、味もドライでボディもそれほどフルボディではなく、物足りなさを感じてしまいます。
ボディが無いわりに、酸味と、やや苦みが際立って、心地よい余韻はあまり長く感じられませんでした。
この品種を判別するための特徴としては、とても強く華やかでさわやか香りと、少しミスマッチに感じられる外観とボディのなさがヒントなのではないかと思いました。