ワインの中には、「マッチを擦ったような香り」を持つものがあると言われています。
このような香りはワインの香りに複雑性を与えるものとして、ポジティブにとらえられることが多いようです。
しかし、この香りが強くなりすぎると、次第に「腐った卵」のような不快な香りに感じられ、これは欠陥ワインの香りとして認知されています。
このような、「マッチを擦ったような香り」や、「腐った卵」の香りが一体どこから生まれてくるのかを考察してみたいと思います。
二酸化硫黄(SO2)?
まず最初に、これらの香りの特徴は「硫黄化合物」に共通するものです。
ワインに使われる硫黄化合物でもっともポピュラーなものと言えば、二酸化硫黄(SO2)です。二酸化硫黄は常温では期待として存在し、別名、亜硫酸ガスとも呼ばれています。そして、二酸化硫黄は、ワインの酸化防止剤や防腐剤(抗菌剤)として用いられ、ブドウの収穫から醸造工程のさまざまな工程で用いられます。また、瓶詰めの際には一定量が添加されます。
二酸化硫黄はワインの変性を防ぐというメリットがある反面、人体に有害なことがあるために、ワイン中の上限濃度が大きく法律で厳しく規制されています。しかし、ワイン中の残留濃度は有害なレベルを大きく下回るもので、一般的には非常に安全なレベルと言われています。
さて、ではこの二酸化硫黄(亜硫酸)が「マッチを擦ったような香り」の原因でしょうか?
どうやら、この二酸化硫黄は直接的な原因ではないようです。
二酸化硫黄は一部の自然派ワインを除いてほとんどのワインに使われている物質です。しかし、全てのワインが「マッチを擦ったような香り」を持っているわけではありません。
また、先述の通り二酸化硫黄の添加量はごくわずかであり、ワインの香りを変えてしまうような量が添加されているとも思えません。
「マッチを擦ったような香り」には別の理由があるようです。
還元臭
「マッチを擦ったような香り」や「腐った卵」の香りは、どうやら「還元臭」と呼ばれるものであるようです。
還元臭の原因は、揮発性硫黄化合物(VSC)に由来すると言われています。VSCはさまざまな硫黄化合物の相称です。
VSCは、アルコール発酵、澱熟成、瓶内熟成などのワインの醸造・熟成工程に発生します。
アルコール発酵工程においてVSCが発生する原因としては、酵母が発酵中に窒素不足のストレスにさらされることだと言われています。これにより、硫化水素(H2S)などの匂いの原因物質が発生します。
澱熟成や瓶内熟成においても、酸素欠乏状態になることでVSCが発生すると言われています。例えば、澱の沈殿であったり、瓶詰めの際の栓の酸素透過度の低さなどで、ワインは酸素の少ない状態にさらされます。この際に、ワインに残存する硫黄化合物が、メルカプタンなどのVSCとして現れます。
「還元臭」という名前は、このような熟成中の酸素の欠乏状態によって、VSCが発生することからこのような名前になったのではないかと推測します。化学的な正確性は分かりませんが、「還元=酸素が少ない状態」ということを意味しているのだと思います。
しかし、そうだとしても、アルコール発酵段階で窒素(N)の欠乏によってVSCを発生させる現象は還元とは何ら関係がないと思うので、「還元臭」という言葉は本当に適切なのか少し疑問の残るところです。個人的には、「還元臭」よりも「硫黄臭」の方がしっくりくる名前のような気がします。
まとめ
ワインが持つ「マッチを擦ったような香り」は、還元臭と呼ばれるもので、少量であればワインに複雑性をもたらすものとしてポジティブに扱われることが多いですが、多量に発生すると「腐った卵の香り」として欠陥ワインとしてみなされます。
この香りの原因物質は、VSCとよばれる揮発性硫黄化合物(volatile sulfur compounds)と言われています。
この物質はワインの醸造・熟成過程で発生するものですが、発生のメカニズムが分かっている部分もあれば、まだはっきりとそのメカニズムが分かっていない部分もあるようです。
<了>