アルゼンチン・ワインの地理的表示(GI)を整理してみようと思います。
アルゼンチン・ワインの地理的表示は基本的に、地方行政区画に従っています。地方行政区画とは、円滑な行政を行うために区切られた区画です。ワイン産地の多くは、地方行政区画(日本でいうと長野県など)か、もしくは、慣習的に使われている地方区分(日本でいうと信州など)で区切られています。
例えばメンドーサを例にとってみます。
まずメンドーサを含んでいる最も大きな地理的表示は、クージョ(Cuyo I.G.)です。
クージョは、正確には地方行政区画ではありませんが、昔から伝統的に使われてきた地理的区分だそうです。通常、「クージョ」という場合は、サン・フアン州、サン・ルイス州、メンドーサ州、ラ・リオハ州の4つの州が含まれますが、ワインのGIの場合はサン・ルイス州は含まれないようです。これは、サン・ルイス州でワイン製造が盛んでないためかもしれません。
ちなみに「I.G.」とは、「Indicacion Geografica」の省略であり、Geographical Indication(地理的表示)と同義です。
そして、メンドーサを含む次の大きいGIは、メンドーサ(Mendoza I.G.)です。これはもっとも大きい行政区画であるプロビンシア(=州)レベルのGIです。ちなみにアルゼンチンの州は英語では「province」と表現されます。
メンドーサ州のデパルタメントの中には、「ルハン・デ・クージョ・デパルタメント」と「サン・ラファエル・デパルタメント」が含まれています。それぞれ、Luján de Cuyo GIと、San Rafael I.G.というGIが存在しています。
この2つの地域は、アルゼンチンに2つしかないDOC産地として有名です。
DOC産地のワインが、一般のGIワインと異なる点は、ブドウやワインを栽培/生産できる地理的な制約だけではなく、ブドウ栽培やブドウ品種、ワイン醸造に対しても一定の法的な制約が課せられていることです。
ヨーロッパでは広く普及しているDOCの仕組みですが、新世界のワイン産地では、かなり新しい試みのように思われます。
アルゼンチンの地理的表示は「DOC」、「IG」、「IP」の三層構造で構成されています。IPについては色々調べてみましたが、あまり情報がないために、個人的にはよくわかりません(今後新たな発見があればアップデートをしたいと思います)。
それでは、デパルタメントよりも小さい行政地区を見てみようと思います。
ルハン・デ・クージョ・デパルタメントをさらに詳しく見てみると、複数のディストリト(district [英])に分かれています。(このレベルになると州によって行政地区の階層が異なるようで、他の州でもメンドーサ州と同様にディストリトと呼ばれる行政区分が存在する構造なのかはよくわかりません。)
このディストリト(district [英])のレベルには、Agrelo I.G.やLas Compuertas I.G.などのGIがあります。
ここまで、アルゼンチンの地方行政地区と、その構造に沿ったGIを見てきました。しかし、近頃は必ずしも行政的な区切りではなく、気候や土壌などの特徴に沿ったGIが誕生しているようです。例としては次のようなGIがあげられます:
・Paraje Altamira I.G. (2013年に認可)
・San Pablo I.G. (2019年に認可)
・Pampa El Cepillo I.G. (2019年に認可)
これらは地方行政区分とは全く異なる概念から造られたワイン用の区分ということができると思います。
最後にメンドーサ州で用いられている、気になった地域の区分があったので紹介したいと思います。
それは、メンドーサの畑を、「東部メンドーサ」、「北部メンドーサ」、「中央メンドーサ」、「ウコ・ヴァレー」、「南部メンドーサ」に分ける区分です(下図参照)。
この区分は調べてみたところ、行政区画とは関係が無いようです。おそらく、メンドーサの畑を地理的な位置によって分類するためにワイン業界で用いられている区分のようです。
これらの中で、この区分がそのままGIになっているものもあります。ウコ・ヴァレー(Valle de Uco I.G., Uco Valley GI)はその一例です。(※調べたところ、ウコ・ヴァレー以外はGIとしては用いられていないようです)
ウコ・ヴァレーは、行政区画で言うと、トゥプンガト (デパルタメント)、トゥヌヤン(デパルタメント)、サンカルロス(デパルタメント)の3つのデパルタメントに位置しています。
このように、地方行政区画と、GIで用いられる地理的な区分の関係を整理しておくと、なんとなくGIに関する理解が深まります。
<了>