個人的に、これができないとテイスティング・スキルがいつまでたっても上がらないと思うことがあります。
それは、ワインの品質を正しく評価できるということです。
テイスティング・スキルという言葉が用いられる場合、それはワインに使われているブドウ品種や、ワインが造られた産地を言い当てられることを指すことが多いと思います。
しかし、ワインの品質を正しく評価できることも重要なテイスティング・スキルの1つであり、品種や産地当てよりも真っ先に理解すべきことなのではないかと思います。
さらに言えば、ワインの品質を正確に評価できなければ、いくらテイスティングのトレーニングを重ねても、全く意味をなさないこともあるとあると思います。
例えば、次のような2種類のワインがあります。
右のワインは5000円以上の価格のワイン、左のワインは1000円前後で購入できるワインです。価格帯は異なりますが、両者ともに、チリ産のカベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたワインです。
まず、右の高価格帯のワインを味わってみると、暖かい地域で育ったカベルネ・ソーヴィニヨンのしっかりと凝縮された果実の香り・風味が感じられます。そして、その裏に、長期の樽熟成に由来するヴァニラや丁子の香りも感じられます。味わいとしては、しっかりとした果実味と、これもカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴である高いレベルの酸味やタンニンの調和が感じられます。チリの気候と強い日差しによって十分に成熟したタンニンの舌触りも感じられます。
このワインを味わうことで、次のようなテイスティングのトレーニングをすることができると思います。
・暖かい産地であるチリのカベルネソーヴィニヨンワインの香りの特徴を捉える
・長期の樽熟成に由来する樽香の特徴を捉える
・暖かい産地であるチリのカベルネソーヴィニヨンワインの味わいの特徴(酸味、成熟したタンニンなど)を捉える
次に、左の低価格帯のワインを味わってみます。
先ほどのワインに比べると、果実の香りはかなり弱く感じられます。かなり感覚を研ぎ澄ませても、かすかな果実の香りしか感じ取ることができず、どのような果実であるかもかなりぼんやりしています。
果実の香りが弱いために、果実とは異なるアルコールを感じさせるような無機質な香りが感じられますが、それが何の香りかはよくわかりません。
味わいとしては、先ほどのワインに比べると質感が物足りなく、かなり水っぽく感じられます。一定の酸味やタンニンを感じることができますが、それらとバランスの取れるだけの果実味がないために、ワイン全体としては非常に後味が悪く感じられしまいます。
このワインを味わうことで、次のようなテイスティングのトレーニングをすることができると思います。
・品質の低いワインの香りや味わいの特徴を捉える
しかし一方で、このワインからカベルネソーヴィニヨンのブドウの品種特徴や、チリ独特の特徴を捉えることは非常に困難です。その理由は、果実味が薄いために、ワインに果実の特徴が十分に表れていないためです。
品質の低いワインに使われるブドウは、基本的に、単位面積あたりの収穫量がかなり高いブドウから造られており、果実味や、酸味、タンニン、色素など、香りや味を構成する要素がかなり薄まった状態でワインにされます。その一方で、足りない要素は、補糖・補酸などによって後から調整されるので、どのような品種や産地のブドウを使っても、似たような香りや味わいになってしまうと言われています。
そのため、品質の低いワインのテイスティングを行った場合には、そのワインが十分にその品種・土地のブドウの味わいを十分に表していないということを理解することが最も重要だと思います。
そのワインから、無理矢理、ブドウ品種や産地の特徴を導き出そうとしても、かえって間違った香りや味わいの特徴を、特定の品種や産地と結びつけてしまうだけです。
このような理由から、テイスティング・スキルを上げるためには、まずはワインの品質を十分に理解・評価できることが重要なのではないかと考えます。
<了>