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マロラクティック発酵のバリエーションに関する考察

 マロラクティック発酵は、通常、アルコール発酵の後に行われる工程で、この工程によってワイン中のリンゴ酸が乳酸に変えられます。 乳酸はリンゴ酸に比べて酸味が弱く乳製品を連想させる独特の香りを持つために、マロラクティック発酵を経たワインは、まろやかでバターのような香りを持った味わいになると言われています。 マロラクティック発酵はほとんどの赤ワインと、この効果が有益と判断された一部の白ワインで行われます。 マロラクティック発酵は、もともとは春になるにつれてセラーの温度が上がるにつれて自然発生的に起こっていた反応のようですが、現在では培養した乳酸菌を加えることで最適環境を整えてこの工程を開始をすることができるようです。そして、そのマロラクティック発酵を開始させる環境の違いが、マロラクティック発酵のバリエーションにつながるわけです。 それではいくつかのバリエーションについて、その考察をしてみたいと思います。 小型の樽を使ったマロラクティック発酵 マロラクティック発酵は通常、タンクで行われることが多いようですが、あえて小型のオーク樽の中で行われることもあるようです。 この場合のメリットは、澱を同時に撹拌できることと、風味がより統合されると言われています。澱の撹拌によって、マロラクティック発酵で生成された乳酸の香りと、澱由来の香りの両方がワインによく溶け込んでいくのではないかと思います。 反対にデメリットは、ワインを少量ずつ個別の樽に分けるために、温度管理などの手間が増えることです。 アルコール発酵と同時に行うマロラクティック発酵 もう1つのバリエーションは、アルコール発酵と同時にマロラクティック発酵を行うというものです。 この方法でのメリットは、ワインの味わいがよりフルーティーになることと、製造時間短縮によるコスト減だと言われています。 味わいがよりフルーティーになる理由を考察すると、多分、自然発生的な澱の攪拌が行われないことによって、ワイン本来のフルーティーな味わいが損なわれないことが原因なのではないかと思います。 また、製造時間の短縮がなぜコスト減につながるかというと、マロラクティック発酵を別に行う場合と比べて管理の手間がかからないことと、タンクの回転率が上がることがその理由なのではないかと思います。 以上、マロラクティック発酵の2つのバリエーションとその効果について考察を

発酵温度によるワインスタイルの違いのまとめ

マスト(ブドウ果汁や果肉、果皮などの混合物)の発酵温度によって出来上がるワインにどのような特徴の違いが出るのかをまとめてみました。 まず発酵温度についてですが、白ワインと赤ワインでは、低温、高温と言われる発酵温度は異なります。 一般に、白ワインの方が赤ワインに比べて低い温度で発酵されます。 低温での発酵の特徴 低温での発酵の特徴は、フレッシュでフルーティーな香りが生成・保持されやすいこと、また、ブドウからの果汁以外の成分の抽出度合いが低いことです。 それにより、出来上がるワインはフレッシュで果実味があり口当たりの良いものになると言われています。 しかし一方で、長期熟成に必要な果実の香りの凝縮度や、骨格となるタンニンや酸味が十分に抽出されないために、早々に出荷されて消費されることを目的とした早飲みタイプのワインになりやすいと言われています。 ちなみに白ワインの発酵温度が赤ワインよりも低い理由は、白ワインにとってフレッシュでフルーティーな香りはより重要で、赤ワインのようにタンニンの抽出を必要としていないことにあるようです。 高温での発酵の特徴 高温での発酵の特徴は、ブドウの果皮などからの抽出度合いが高まるために、果実の香りの凝縮度や、骨格となるタンニンなどの成分が果汁内に多く抽出されることです。 一方で、揮発性のエステルなどの成分が失われてしまうことで、フレッシュでフルーティな香りが失われてしまうとも言われています。 このような発酵の特徴から、高温で発酵された場合には、より長期熟成に向いたワインが出来上がると言われています。 <了>

【考察】なぜ、マセラシオン・カルボニックではタンニンがあまり抽出されないのか?

 赤ワインの製造には、 「房ごとのブドウを用いた発酵手法」 が用いられることがあります。 「房ごとのブドウを用いた発酵手法」を用いると次のような特徴を持ったワインが製造されると言われています: ① 嫌気性の反応(ブドウの細胞内の発酵)が起こるためにキルシュやバナナ、風船ガム、シナモンのような独特な香りが加えられる ② 嫌気性の反応(ブドウの細胞内の発酵)によりリンゴ酸が消費されて酸味が抑えられる ③ 嫌気性の反応(ブドウの細胞内の発酵)によりグリセロールが生成されてワインに質感が加えられる ④ 茎由来のスパイスやハーブの香りがワインに加えられる ⑤ 茎由来のタンニンがワインに加えられる ちなみに、 『マセラシオン・カルボニック』 も「房ごとのブドウを用いた発酵手法」の1つです。マセラシオン・カルボニックで製造されたワインは次のような特徴を持っていると言われています: Ⓐ 品種由来の香りに加えて、キルシュやバナナ、風船ガム、シナモンのような独特な香りを持つ Ⓑ フルーティーでタンニンが少なく、早飲みスタイルのワインを造る ここで1つ疑問が発生します。上にあげた特徴の⑤とⒷは明らかに矛盾しているような気がします。 「房ごとのブドウを用いた発酵手法」を用いると茎の存在のためにより多くのタンニンが抽出されるはずなのに、マセラシオン・カルボニックではタンニンが少ないワインができると言われています。 一見、矛盾に思われるこの特徴の違いがなぜ表れるのかを、一般的な「房ごとのブドウを用いた発酵手法」と「マセラシオン・カルボニック」の工程を比べることで調べてみました。 まず、 「房ごとのブドウを用いた発酵手法」 としてよく用いられる、破砕したブドウマストに房ごとのブドウを加えて発酵させる手法の工程をしたにまとめてみました。 この工程では、果皮や種子に加えて茎もマストに加えられてマセレーション~アルコール発酵が行われています。 タンニンはアルコールに溶けやすい性質を持っているために、発酵によってアルコールが生成されることで、果皮や種子、そして茎から多くのタンニンがマスト内に溶け出します。 これが「房ごとのブドウを用いた発酵手法」において、茎由来のタンニンが抽出される理由です。 では次に、 「マセラシオン・カルボニック」 における流れを見てみたいと思います。下にマセラシオン・カルボニック